体質改善とは便利な言葉でよく使われますが、漢方のいう体質とはどのようなものでしょうか?詳しく述べていきます。その前に次の本東洋医学で食養生―美・医・食同源 体質・症状・年齢別 (特選実用ブックス)
Contents
気虚(ききょ)体質
「気」は、人間が活動するためのエネルギー源です。この気の量が不足すると、身体がだるい・気力がない・疲れやすい・食欲がない・かぜをひきやすいといった症状が出やすくなります。これが「気虚」です。
原因はさまざまですが、最も多いのは、胃腸(漢方では胃腸で「気」が作られるとされている)の消化吸収力が低下したために、食べたり飲んだりしたものを効率よく「気」(=エネルギー)に変えることができないというものです。
ここに暴飲暴食や過労などの悪条件が加わると、ますます「気」が不足しやすくなります。
以下の項目で是非チェックしてみましょう。
いくつも当てはまる人は要注意です。
- 身体がだるい
- 気力がない、疲れやすい
- 日中の眠気
- 食欲不振
- 風邪を引きやすい
- 物事に驚きやすい
- 眼光、音声に力がない
- 胃下垂と言われたことがある
- 胃がもたれやすい。食が細い
- 軟便、下痢をしやすい
- むくみやすい
- 冷え性
- 声が細く、大きい声が出ない
- 舌は色が淡く、大きくむくみ、縁に歯の跡が見える(歯痕舌)
気虚には、気の生成に関わる内臓である腎、脾、肺の衰えを回復させる漢方薬を処方します。
気虚については、当院の漢方著効例1の症例15、48、当院の漢方著効例2の症例72・97、当院の漢方著効例4の症例166の項も参照下さい。
【どんなことに気をつければいい?】
胃腸を冷やして、消化吸収力をさらに低下させるなまもの、冷たいものは、できるだけ控える。また、「食べないと元気が出ない」と、無理やり食べ物を押し込むようなことはせず、「温かくて、消化のよいものを、腹八分目」という習慣をつけて、胃腸をいたわるようにしてください。過労や睡眠不足に注意することも大切です。また、感染に対する抵抗力が弱いので清潔を保つようにしましょう。
食べ物では、牛肉、鶏肉、うなぎ、えび、やまいも、かぼちゃ、ねぎ、生姜(しょうが)、納豆、きのこ、栗などがお勧めです。
気滞(きたい)体質あるいは気うつ体質
体内を流れる「気」は、のびのびと循環しているのが健康な状態です。気持ちがのびのびしている時は、エネルギーである『気』の流れも良いのですが、肉体的・精神的なストレスがかかったり、心配事があると、「気」の通り道が収縮を繰り返し、『気』の流れが止まってしまい、『気滞』という状態になります。
特にストレスを感じていなくても、「のどがつまる」・「腹部や脇、乳房が張る」・「不眠」などの症状があるようなら、「気」が巡りにくくなっている(=「気滞」)証拠です。
以下の項目で是非チェックしてみましょう。
いくつも当てはまる人は要注意です。
- 不安や憂うつがある。イライラする、怒りっぽい
- 頭重感、頭皮が凝る感じ
- のどにものが詰まったような不快感がする
- 胸やみぞおちの詰まった感じ
- 腹部膨満感
- 時間により症状が動く
- 朝おきにくく、調子がでない
- 眠れない。よく夢を見る
- 胃やおなかが張り、ゲップやガスが多い
- 口の中が苦い味がする
- よくため息をつく
- 下痢と便秘を交互に繰り返す
- 生理の周期が不順。 生理前に下腹部や乳房が張る
- 舌は両端が赤く、苔がある
気のうっ滞を改善し気を巡らすようにする漢方薬を処方します。
気滞については、当院の漢方著効例1の症例24、漢方著効例2の症例64、当院の漢方著効例3の症例102、103の項も参照下さい。
【どんなことに気をつければいい?】
日常生活では、楽しい事を考えて気分をのびのびさせたり、リラックスする時間を多めに取りましょう。といっても、ただゴロゴロしているだけでは、なかなか「気」を巡らせることはできません。効率よく「気」を巡らせるためには、ストレッチや水泳、ウォーキング、エアロビクスなどの全身運動が効果的です。また、音楽を聴いたり、絵を見たり、ガーデニングやアロマテラピーなどで心豊かな時を過ごすことも、「気」を巡らせる有効な方法といえます。
このほか、ゆっくりと息を吸ったり吐いたりする、おなかから声を出して歌う、といった方法もおすすめです。
食べ物では、香味野菜(みつば、紫蘇(しそ)、ミント、セロリ、せりなど)、陳皮(ちんぴ;みかんの皮)、枸杞(くこ)の実、菊花、かんきつ類など、香りのいいものには「気」を巡らせる効果があると言われています。
なお、香りのある食材はあまり長時間火にかけると、大切な成分が飛んでしまうので料理の最後に加えてさっと加熱するなどを心がけてください。
血虚(けっきょ)体質
「血」が量的に不足し、「体の各所に栄養を与える」という「血」の機能が衰えている状態を、「血虚」といいます。
頭髪が抜けやすい、皮膚の乾燥・荒れやあかぎれ、また、こむらがえりや集中力の低下などが見られます。月経がある分、男性より女性のほうが「血虚」になりやすく、特に出産直後は、ほとんどの人が「気」や「血」が不足した状態になります。また、実際には気も不足した「気血両虚」という状態になるため、だるい、疲れやすいといった症状も現れやすくなります。
なお、偏食、無理なダイエット、夜更かし、過労といった生活習慣は「血」を消耗する大きな原因になります。
以下の項目で是非チェックしてみましょう。
いくつも当てはまる人は要注意です。
- 顔色が悪い(顔色が白く、つやがない)
- 集中力低下
- 不眠、睡眠障害
- 眼精疲労(かすみ目、疲れ目がある)
- めまいや、立ちくらみがする
- 過少月経、月経不順
- 頭髪が抜けやすい
- 皮膚の乾燥と荒れ、あかぎれ
- 爪の異常、変形(爪が白っぽく、薄くて割れやすい)
- 動悸がする
- よく物忘れをする
- 手足がしびれる。こむら返りを起こしやすい
- 舌は、色が淡く、小さい
血を生成させる漢方薬を処方します。
血虚については、当院の漢方著効例2の症例54の項も参照下さい。
【どんなことに気をつければいい?】
不足している「血」を補うためには、ほうれん草、にんじん、小松菜、レバー、烏骨鶏(うこっけい)、うずら卵、黒豆、小豆、枸杞(くこ)の実、プルーン、ナツメ、桃などにも「血」を補う作用があります。
瘀血(おけつ)体質
「血」のめぐりが悪くなる原因は、実にさまざまです。「血」が不足(=「血虚」)していても「血」は巡りにくくなりますし、ストレスや冷えなどが引き金となって、「血」が滞るケースもよく見られます。ストレスによって血行が悪くなり、冷やす性質の食物を食べすぎると血の巡りが鈍ってしまいます。
また、月経、妊娠・出産、閉経といった女性ならではの生理は、すべて「血」の機能にかかわっているため、男性より「血」の巡りが悪くなりがちです。さらに、卵巣や子宮の手術をしたり、更年期でホルモンバランスが崩れることも、「瘀血」を引き起こす要因になります。この他に運動不足や喫煙も瘀血の大きな要因となります。
【どんなことに気をつければいい?】
できるだけ冷えとストレスを寄せつけない生活を送るようにしましょう。女性の場合、体が敏感になっている月経中は、特に注意が必要です。体を冷やす飲食物やお酒も避け、睡眠もふだんより多くとるように心がけましょう。
「血」のめぐりをよくする食べ物には、サフラン、シナモン、うこん、にんにく、にら、玉ねぎ、ねぎ、いわし、かに、どじょう、サンマ、黒きくらげなどがあります。
また、適度なスポーツも血行をよくする効果があります。
水毒(すいどく)体質あるいは痰湿(たんしつ)体質
漢方では、水はけの悪い体質を「水毒」体質といいます。顔や手足がむくんで冷えたり、体がなんとなく重く、だるく感じたりします。「痰湿」とは、粘る性質を持つ不要な液体で、湿気の様なものです。酒・肉類・乳製品など粘る性質のものを取りすぎたり、それらを排出する為の野菜の繊維が少ないと溜まってきます。また、胃腸が冷えて弱ると、痰湿を排泄する力が弱るので痰湿が溜まってきます。「水毒」体質となると、胃腸症状やめまいなどの症状が出てくることもあります。なお、花粉症などの鼻炎や気管支喘息なども「水毒」との関係が深いと言われています。
【どんなことに気をつければいい?】
「水毒」の原因は、体の消化吸収機能も大きくかかわっています。そのため、水の飲み過ぎだけでなく、食べ過ぎにも注意が必要です。生ものや冷たいものはできるだけ控え、「温かくて、消化のよいものを、腹八分目」という習慣をつけて、胃腸をいたわるようにしてください。
「水」の流れをよくする食べ物には、あさり、しじみ、玄米、はと麦、海藻、きのこ、たけのこ、こんにゃく、根菜(ごぼう、大根、かぶ、にんじん)などがあります。また、全身運動(ウォーキング、エアロビクス、エアロバイク、水泳など)で適度に汗をかくのもおすすめです。
また、冷え性の人は水分代謝が悪くなりやすいので、体を冷やさない工夫も必要です。
以下の項目で是非チェックしてみましょう。
いくつも当てはまる人は要注意です。
- 身体の重だるい感じ
- 拍動性の頭痛
- 頭重感
- 車酔いしやすい
- めまい、めまい感
- 立ちくらみ
- 水様の鼻水
- 吐き気、嘔吐
- 朝のこわばり
- むくみやすい
- 水様性の下痢
- 尿量減少
- 多尿
水の滞りを改善する漢方薬を処方します。
水毒については、当院の漢方著効例の症例3,22、120、174、215、261の項も参照下さい。
陰虚(いんきょ)体質
体の中の必要な水が不足すると、潤いが失われ、手のひらや足の裏がほてる、体が熱っぽい、のぼせやすい、口やのどが渇きやすい、といった熱症状が現れます。
体に余分な熱が生まれているのではなく、潤いが足りないために、相対的に体の熱が旺盛になっている状態です。
さて、日本では、陰虚は、気血の不足ほどには論じられてきませんでした。日本は水が豊富で、環境の乾燥が問題となることが少なかったためと考えられます。
【どんなことに気をつければいい?】
体の潤いを増やすためには、単に水を飲めばいいというものではありません。れんこん、きゅうり、トマトなどの野菜をたっぷりと食べ、体を熱くして潤いを奪う香辛料(唐辛子、コショウ、山椒など)はなるべくとらないようにするなどの工夫が必要です。また、豆乳、豆腐、ヤマイモ、ゆり根、ゴマ、枸杞(くこ)の実、黒豆、桑の実、白きくらげ、ライチなどもおすすめです。
食生活の問題だけでなく、ストレス、過労、タバコ、性生活の不摂生なども、津液不足の原因となります。十分に注意してください。
以下の項目で是非チェックしてみましょう。
いくつも当てはまる人は要注意です。
- 夕方以降になると微熱が出やすい
- 顔色が赤い
- 空咳が続く
- 目が乾きやすい
- 耳鳴りがする
- 口やのどが渇き、冷たいものを欲しがる
- 便がコロコロしている。便が出にくい
- 寝汗をよくかく
- のぼせ、ほてりがある
- 舌は赤い。表面に裂け目があり、苔がほとんどない
陰虚については、当院の漢方著効例3の症例128の項も参照下さい。
参考:「陽気」と「陰液」について
血と正常な水液(=津液)は陰に属し、陰液とも呼ばれ、気は陽に属し、陽気とも呼ばれます。
気は陰液(成長発育の源)の滋養によって機能が高まり、血、津液は気の働きにより生成と循環を繰り返します。
このように、それぞれが互いに助け合いながら、またある時には制御しながら、生命の維持をしているという考えが漢方の基礎にはあります。