今後、漸次著効例をアップしていく予定です。
患者さんはもとより、漢方を志す先生方のご参考になれば幸いです。
平成21年5月
Contents
- 1 1.「瘀血」(おけつ)による腰痛・下肢痛の症例
- 2 2.「瘀血」による両膝の痛みの症例
- 3 3.感染性胃腸炎(小児の嘔吐・下痢症)
- 4 4.花粉症
- 5 5.帯状疱疹(ヘルペス)後神経痛(1)
- 6 6.にきび
- 7 7.インフルエンザ?
- 8 8.冷え症・慢性の下痢
- 9 9.じんま疹
- 10 10.無月経
- 11 11.生理痛
- 12 12.肩こり
- 13 13.総胆管結石を頻繁に繰り返す症例
- 14 14.不妊症
- 15 15.気虚発熱(微熱が続く)
- 16 16.皮膚科で治らない湿疹
- 17 17.過敏性腸症候群
- 18 18.肥満症
- 19 19.不眠症
- 20 20.めまい
- 21 21.頚椎性頭痛
- 22 22.水毒による頭痛
- 23 23.朝のこわばり(関節リウマチが心配)
- 24 24.眼瞼痙攣・歯ぎしり・いらいら・不眠・あくび等多彩な症状
- 25 25.いらいら・不眠・多怒・性急
- 26 26.小児の下痢・(低身長・小児虚弱体質)
- 27 27.慢性の鼻炎
- 28 28.右下腿の痛み
- 29 29.よく下痢をする・鼻血が出やすい(小児虚弱体質)
- 30 30.非結核性抗酸菌症(1)
- 31 31.鼻出血
- 32 32.こむらがえり
- 33 33.掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)の漢方治療
- 34 34.耳鳴りの漢方治療
- 35 35.瘀血による腹部膨満感
- 36 36.めまい・頭痛・のぼせ・発汗(更年期障害)・左の股関節痛
- 37 37.腰痛・冷え症(おなかが冷える)
- 38 38.頻尿・夜間尿・その他(耳鳴り・肩こり・動悸 など)
- 39 39.慢性胆のう炎
- 40 40.右足の痛み
- 41 41.西洋の便秘薬が合わない・腰痛症
- 42 42.腎虚による腰痛症
- 43 43.右肘が痛みのため伸びない
- 44 44.腸閉塞症を繰り返す
- 45 45.20年来続いためまい発作、不眠症
- 46 46.肩から背中から胸にかけての痛み
- 47 47.閉経前の顔面・下肢のむくみ
- 48 48.風邪がこじれて治らない(気虚の風邪)
- 49 49.朝方だけの鼻水・くしゃみ
- 50 50.4年間続いた原因不明の痰
1.「瘀血」(おけつ)による腰痛・下肢痛の症例
最初の症例は、75歳の女性の方です。
平成16年12月頃より左腰痛、左下肢痛出現(痛みは夜間から明け方にとくにひどくなる)し、整形外科を受診されましたが、「骨には異常なし」といわれ、鎮痛剤や湿布など処方されましたが、痛みはとれず、かえって胃が悪くなったため、今度は平成17年6月より針治療に通いましたが、それも無効のため、平成17年12月9日漢方治療目的で、当院を受診されました。
身長146.2cm、体重50.6kg、BMI23.7。
この方の舌を見ると、紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。そこで、「瘀血」体質の神経痛に使う、疎経活血湯(そけいかっけつとう)という方剤を開始しました。そうすると、2日目には左足の痛みが膝より上だけになり、随分楽になり、7日目には椅子に今まで長く座れなかったのが座れるようになりました。そして、14日目にとうとう腰痛が消え、40日目に下肢の痛みも完全に消え、大変喜んでいただきました。
「瘀血」については、漢方体質診断の瘀血(おけつ)体質、 症例2を参照下さい。
「瘀血」の自覚的症候については、症例は35を参照下さい。
漢方では、「気・血・水」各々が通じないために痛みが生じると考えます。それぞれの痛みの特徴は、
- 「気滞」(きたい)の痛み‥張るような、悶えるような痛みで、しかも移動性の痛みである。
- 「瘀血」(おけつ)の痛み‥固定した部位に刺されるような痛みがあり、押すと痛みがひどくなり、手を払いのけたくなる。
- 「水滞」(すいたい)の痛み‥重だるい痛みで、湿気や低気圧で悪化し、粘着性で同じ部位にとどまりやすい。
以上の特徴があり、それぞれにふさわしい方剤を選びます。
疎経活血湯について(下田 憲先生)
四物湯(しもつとう=血虚に使う基本方剤)をベースに17の生薬より構成されています。
血行を改善する(=活血)ことによって、経絡(気血の通り道)の流れを通じさせる(=疎経)。
「血虚」と「瘀血」と両方を兼ね備えた証です。日本漢方の処方の中で、この両方を意識しているのは、この疎経活血湯だけです。
2.「瘀血」による両膝の痛みの症例
次の症例は、79歳、女性の方です。
この方は、13年前より両変形性膝関節症であちこちの整形外科や針治療に通院し、また、膝に良いと言う健康食品はすべて試したそうですが、なかなかよくならなかったそうです。毎月のように膝の水を抜いており、1週間前よりその痛みが強くなり(特に夜間)、歩くのもままならないようになり、友人(症例1)に、漢方治療を勧められ、平成19年4月26日当院を受診されました。
身長146.8cm、体重49.3kg、BMI23.0。
この方も、舌の色が紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、やはり「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。また膝に水がたまり、水毒体質もあると考え、瘀血体質に使う代表的な方剤である桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)と水毒体質の膝の痛みによく使う防已黄耆湯(ぼういおうぎとう;症例76参照)に、体を温める附子(ブシ)を合わせて開始したところ、3回飲んだ時点(1日半)ですっと膝の腫れが引き、皮膚にしわがいき、痛みがうそのように引いたそうです。今まで後に引っ張られるような感じであったが、スイスイと足が前に出るようになり、2週間後再診した時には、診察室でピョンピョン飛び跳ねてみせ、「先生のおかげです」と、何度も何度も感謝してくださいました。
さらに1ヵ月後には、「今日は自転車に乗って来ました。意外と近かったです。」と、言い、また、「薬が有難くって、1回も飲み忘れしませんでした。」「今までは、夏でも汗をかかなかったのに、今は普通に汗が出ます。」「筋力をつけるため、階段をどんどん上っています。」と言われ、最後に「私の13年間は何だったのでしょう。」と言われました。
このように、膝の痛みで苦しんでおられる方はたくさんおられますが、漢方では意外と簡単に治せます。当院ではすでに何十人もの方に、膝の痛みが取れたと喜んでいただいております。
変形性膝関節症の漢方治療については症例76,111,131,184,207,209,227,228,245,268,269,282,283,300,311,319,334,355も参照して下さい。
「瘀血」とは?
「瘀血」とは、漢方医学の特有な概念で、体内・毛細血管内に滞留している、機能を失った血液を指します。「瘀血」とは血液としての機能を失っいるだけではなく、人体にとって有害で、いろいろな障害をあたえる毒素と考えられ、できるだけ早く体外に排泄すべきものです。
別名は古血、悪血、血滞、血鬱、汚血、蓄血、血毒、死血とも言います。
「瘀血」はいろいろな原因で発生します。
特に女性は生理・出産の時に生成されるため、量の多少の問題だけで、体内に「瘀血」を蓄積しています。
また、打撲・外傷・手術等でできる「瘀血」や、遺伝的・体質的な「瘀血」、他の病気から発生する「瘀血」もあり、男女問わず発生します。
瘀血の症状は多様です(症例35参照)。精神・身体症状がからだのさまざまなところに現れます。
疼痛・頭痛・神経痛・首筋の痛み・心臓の痛み・胃の痛み・腹痛・生理痛・など体の各所に痛みが起こります。
痛みは同じ場所におこるのが特徴です。針で刺されるような痛みがジワジワと続き、夜間痛みが強くなります。
また、いつもイライラしがち、のぼせ、不眠、憂鬱感があってクヨクヨとものを考える、といった精神神経症状が現れるようになります。
附子(ブシ)末について
附子(又は烏頭)はトリカブトの根で猛毒ですが、これを加熱、加工調製したものが加工附子で、有毒成分はほぼ消失しています。
オートクレープで加熱処理するのですが、これで有毒成分のアコニチンのアルカロイドが、ジエステル型からモノエステル型に転化して、毒性が減少し、熱に強い非アルカロイド性の強心物質が残って、強心、利尿、鎮痛、去寒などの効果を現します。
体力の衰えている時には多量に使用できますが、体力が充実しているときは量を少なくします。
3.感染性胃腸炎(小児の嘔吐・下痢症)
次の症例は、1歳7ヶ月の男児です。
平成18年2月21日より咽頭痛と38.4℃の発熱が出現しました。そして、翌日朝より下痢と嘔吐を何回か繰り返し、全く食事が取れない状態となって来院されました。顔面は蒼白でした。
五苓散(ごれいさん);症例215参照)1包をお湯に溶いてお尻から注入(図のセットを使用します)したところ、15分程するとみるみる顔色がよくなり帰宅されました。帰ってからうどんをぺろりと食べ、夕食も普通に食べそのまま治ってしまいました。
当院では、小児が嘔吐や下痢で来院されても、このように処置することで、ほとんど点滴することはありません。小さい子供に点滴するのはかわいそうです。
頻回の嘔吐が続く割には水分を欲しがり、またガバッと吐くということを繰り返します(漢方でいうところの“水逆の嘔吐” )が、まさにこの病態に五苓散は最大の効果を発揮してくれます。制吐剤でも効果が
十分でない場合でも、五苓散は効いてくれることが多いです。
同じような症例を、症例236、237、343にも載せております。
五苓散は漢方薬理上、「利水剤」というジャンルに分類される方剤です。
昭和薬科大学病態科学研究室教授の田代眞一氏らが行った実験によると、フロセミド(代表的な商品名:ラシックス)などの利尿剤は、人体が脱水になっている場合でも、投与すると尿量を増やし、脱水を助長しますが、五苓散などの利水剤は、人体が脱水になっている時は尿量を減らし、脱水を緩和させます。
ここが漢方薬の優れたところです。
4.花粉症
次の症例は、53歳、女性の方です。
もともと気管支喘息もある方です。昨年までは西洋薬の抗アレルギー薬を飲まれていましたが、平成21年は花粉の量が多く、目も鼻も大変で、おまけに喘息も夜間に発作が出るようになり、なんとかしてくれと3月4日来院されました。喘息に使う麻杏甘石湯に、アレルギー性鼻炎に使う小青竜湯を合わせて出し、症状がひどかったので西洋の点鼻薬と目薬もいっしょに出しましたが、全くよくならないと9日後に再診。今度は、麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)に越婢加朮湯(えっぴかじゅっとう;症例109参照)を出したところ、目も鼻も喘息もうそのように症状が出なくなりました(点鼻薬と目薬は使わなくてよかったそうです)。
今年は花粉の量が多くて西洋薬が効かなかった人がたくさんおられましたが、漢方薬は本当によく効きました。
症例171も参照して下さい。
花粉症について
人には、自己と異なる物質が体内に入ると、それを見分けて排除しようとする能力があります。この働きが過剰に現れると、不快な症状を示すようになります。これがアレルギーです。
花粉症は、木や草の花粉が、風に乗って飛散する時に起こるアレルギーです。
花粉症には季節性があり、一種類だけでなく多種類の花粉に感作されていることもあります。一番重要なのはスギ花粉症です。
スギ花粉症の有病率は成人で10~20%、小児で5~10%と推定され、国民の10~20%がかかっていると言われ、まさに国民病であり、患者数は一千万人以上というデータもあります。
一般には春は樹木の花粉、スギ以外には、シラカバ、コナラ、夏はイネ科の草の花粉、カモガヤ、スズメノテッポウなどがあり、秋は雑草の花粉でブタクサ、ヨモギ、クワモドキ、カナムグラなどが原因抗原として重要です。
花粉症の症状は眼症状(涙、眼の痒み、充血)と鼻症状(鼻汁、鼻閉、くしゃみ、かゆみ)がみられる。重症になると、咳、全身倦怠感、熱感、頭重、抑うつ感などの症状が出現してきます。
花粉症は、花粉(抗原)にさらされるとそれに対する抗体が体内でつくられ、もう一度花粉(抗原)が体内に入ってきた時に抗体が反応し、花粉(抗原)を取り除こうとして症状が、主に眼、鼻、咽喉頭、気道、皮膚に出現します。主な症状は、花粉シーズンに合わせた季節性・反復性のくしゃみ、水性鼻汁、鼻閉と眼のかゆみ、流涙、結膜充血などです。次いで咽喉頭の痛みと痒み、外耳道の痒み、耳閉感、気道症状としての咳、時に喘息症状などもみられます。湿疹やじんま疹を伴うこともまれでなく、アトピー性皮膚炎の悪化因子ともなります。その他、全身倦怠感、熱感、頭重感、集中力低下や消化器症状など感冒様症状もみられることがあります。
5.帯状疱疹(ヘルペス)後神経痛(1)
次の症例は81歳、男性です。遠くの佐用町から来られている患者さんです。
平成17年3月、右前胸部から腰背部にかけ、帯状疱疹出現し、近くの医院でヘルペス用の点滴治療を受けましたが、痛みのため食事も摂れず、体重が5キロも減ったため、A市民病院に25日間入院され、神経ブロック等の治療を受けましたが、痛みは引かないため、退院後、今度は別の総合病院の麻酔科を受診しましたが、そこでは、「すでに神経が破壊されているので手遅れ」と言われたそうです。一応、神経ブロック等の治療を受けましたが、疼痛は持続したため、漢方治療目的で平成19年12月4日当院へ来院されました。
痛みは、「焼け付くような」痛みで、何かに少し触れても痛み、風呂で温めると少しはよく、また夏場はやや痛みが和らいだそうです。
平成19年12月4日、気虚+血虚に使う当帰湯(とうきとう;症例71、122参照)と、体を温めるブシ末0.75gを開始しました。以下は治療経過です。
12月26日(2診)、「痛みは少しまし」。ブシ末1.5gに増量。
平成20年1月28日(3診)、 「随分、痛みは楽になった」。そして、現在ほとんど痛みはなく、今も2ヶ月に一度薬をとりに来られています。私が、「遠い所を申し訳ありませんね。」と、言いますと、「いいえ、2ヶ月に一度ここへ来るのが楽しみなんです。」と、言って下さいました。感謝です。
帯状疱疹後神経痛は、帯状疱疹のあと頑固な痛みを残した状態で、発症して数ヶ月たっても痛みがとれないものをいいます。
「引き裂かれるような」・「えぐられるような」・「焼け付くような」痛みがあるといわれ、鎮痛剤もあまり効果がなく、抗うつ剤なども使用します。こんな状態は、漢方では気も血も虚していると考え、方剤を選びます。
帯状疱疹(ヘルペス)後神経痛については症例122、124、255も参照ください。
当院では、もう2例、帯状疱疹後神経痛の著効例がありますが、それは、どちらも当帰湯ではなく、桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう;症例104、124、203、206参照)+ブシ末を使った症例です。
そのうちの一例をあげます。
症例は87歳、女性です。平成7年に右顔面に帯状疱疹出現し、2週間入院し、点滴治療を受け、その後、麻酔科での神経ブロック等の治療を受けましたが無効で、その後はずっと、解熱鎮痛剤とビタミンB12製剤などを飲まれておりましたが、ハンカチなどが少し触れただけても痛んだそうです。平成19年12月26日当院へ来院されました。桂枝加朮附湯+ブシ末を投与し、2週間後には痛みが少し楽になり、1ヵ月後にはほとんど痛まなくなりました。今でも寒い日などは、ほんの少し痛む時があるようですが、以前に比べればうそのようで、「先生に助けていただきました。」と、言ってくださいました。感謝です。12年間も続いた痛みでも漢方薬で取れるのです。
帯状疱疹について解説します
帯状疱疹は、子供の時にかかった、みずぼうそうのウイルスが身体の中に潜んでいて、疲れた時などを狙ってまた暴れだす病気です。不思議なことに、2回目に暴れだす時は体の一部の神経の分布に従って、皮膚に水ぶくれを伴う痛いぶつぶつができるのです。それが腰や胸のところにできるとあたかも帯のようだから、帯状の疱疹、帯状疱疹と言うわけです。頭からおしりまで、からだのどんな所にもできます。しかし、かならず左右どちらか一方です。帯のようにできると言いますが、体をぐるりと巻いてしまうことはありません。
さて、この皮膚病はとても痛いのが特徴です。今は原因のウイルスを殺す薬がありますので、早くそれをのんだり、点滴をしたりするとぶつぶつはとても早く治ります。しかし、問題は痛みです。帯状疱疹の中には、ぶつぶつがなくなって元のような皮膚になっても、いつまでも痛みが残る場合があるのです。これを帯状疱疹の後の神経痛、帯状疱疹後神経痛と言います。この痛みの治療がなかなか難しいのです。じっとしていても、チクチク、ジリジリと痛みが襲う。物が軽く触れただけで、たとえばシャツがすれるだけで、ジガジガと痛い。この痛みはなった者でないとわからない耐えがたい痛みだと言います。
西洋医学的にも様々な薬を使ってこの痛みに対処しようとしますが、簡単ではありません。神経ブロックもそれほど効果がありません。
漢方薬はこの帯状疱疹後神経痛に対してもよく本当によく効きます。
6.にきび
次の症例は21歳、男性です。
もともと、アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎があり、扁桃炎をよくおこします。にきび(おでこに特に多い。夏に悪化しやすい)を訴え、平成20年8月1日来院されました。甘いものや油物が好きとのことでした(腹囲が93cmもあり、BMIは30.6と肥満体型です)ので、そちらを和食中心に変えるように指導いたしました。皮膚の色は浅黒く、腹の診察では、両季肋部部が硬く張っていましたので、荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう;症例27参照)を出したところ、2週間後には、「にきびが枯れてきて調子よい。」と、喜んでいただきました。この方は、そのまま現在に至るまで飲み続けられております。
荊芥連翹湯は、鼻炎を伴うものによく用い、にきびは小さめで、散発する傾向の者に合うといわれています。
痛みが強い、膿が黄色っぽい、赤みが強いなどの特徴があります。荊芥連翹湯には、補血の基本剤「四物湯(当帰、芍薬、川芎、地黄)」が配合されており、熱をさます、黄連解毒湯(黄連、黄柏、黄芩、山梔子)など15種類以上の生薬で構成されているので、体に負担をかけにくいマイルド処方になっています。
なお、にきびについては、症例67、163、182、306、320、336、337、392もご参照ください。
にきびを改善する日常生活の注意点
食事はなるべく肉などの動物性脂肪を控えめにして、魚や野菜、豆類(ナッツ類を除く)、イモ類などを主体にした和食が理想的です。甘いもの(とくに洋菓子、アイス、スナック菓子)の取りすぎにも注意しましょう。また不規則な生活やストレスは免疫を低下させ悪化の要因になります。暴飲暴食は控えて疲れをためず、睡眠を十分にとることが大切です。脂とよごれを落とす洗顔はとても重要です。にきび用の洗顔料で逆に悪化する方は、低刺激性の石けんがよいでしょう。強くこすらずに、泡で包むようにソフトに洗うことも大事です。化粧は一般に悪化要因になりやすいものです。ことに油っぽいクリームやパウダーは毛穴をふさいでにきびを悪化させます。また手でいじることは細菌感染を誘発して、悪化のきっかけになりやすいので避けるべきです。さらに便秘も重要な悪化要因ですから、日常の治療やコントロールが大切になります。
7.インフルエンザ?
次の症例は39歳、女性です。
平成21年3月17日昼すぎより、38.5℃の発熱と悪寒出現し、午後診に来られました。発汗はみられません。インフルエンザの流行っていた時期でしたが、抗体検査をするのには早すぎますので、検査はせずに、葛根湯(かっこんとう)を出しました。3回の服用で治癒しました。
この場合、飲み方が重要です。
葛根湯の飲ませ方
葛根湯は、このように、かぜの初期の汗の出ていない寒気のするときに使用します。1回2包を3時間毎に、市販の生姜湯に溶かして飲ませました。そして、漢方薬を服用したら、すぐに横になって布団をかぶって、暖かくして寝てもらうようにしました。普通、30分ぐらいすると、汗が出てきます(じとっと汗をかくぐらいが適当です。そうしたら、すぐに下着を替えて、また寝ていてください)。もし、2~3時間たっても汗が出ないなら、もらった漢方薬の一回分を、また服用してもらうのです。この方は、3回飲むことで発汗しました。汗をかいたら、その後は漢方薬はやめるのです。それでも汗が出ないなら、翌日来院してもらえば結構です。
西洋薬の鎮痛解熱剤のように強制的に熱を下げる薬は、漢方では使用しません。かえって、熱産生を高めるような漢方薬を温服することにより(体温をあげるようにしてウイルスの増殖をおさえる)、自然な解熱が得られるのです。
8.冷え症・慢性の下痢
次の症例は81歳、女性です。
全身が冷える、慢性の下痢(一日5回くらい)、膝や腰の痛みなど訴え、平成19年12月25日来院されました。腹診で、みぞおちが冷たく、少し、硬くなっていました(=心下痞硬(しんかひこう)という)。人参湯(にんじんとう)に、体を温めるブシ末を併用して、治療を始めました。1ヵ月後、下痢の回数が、一日2回に減り、2ヵ月後には、下痢はなくなりました。それとともに、冷えもよくなり、4ヵ月後には膝や腰の痛みもよくなられました。
人参湯について(下田 憲先生のコメント)
人参湯の人と言うのは「脾」(症例97参照)が弱い人なのです。
脾が弱い人の人参湯のレベルでは、あまり強い精神症状を出さないのです。脾が弱くてもゆっくり弱いという状態で、ほとんど身体症状だけを出します。
胃腸の働きが弱く、なんとなく元気がないくらいです。そうするとなんとなく体も冷えるのです。
冷え症の人が注意すること
冷たいアイスやジュース、生野菜、果物などの大量摂取は避け、体を暖める食品(生姜、ネギなど)をバランスよく取りましょう。水分のとりすぎも冷えの大きな原因になりますので、十分な注意が必要です。
また、寝る前に38~40℃くらいのお湯にゆっくりつかると、手足の血の巡りがよくなります。みぞおちまでつかる半身浴(方法については こちらをクリック 半身浴・総合ガイド)、くるぶしまでお湯につける足湯もおすすめです。
服装は、靴下の重ねばきや、毛糸の下着などの工夫で、冷えから身を守りましょう。締め付けの強い下着は、血の巡りを悪くするので避けましょう。
また、血行をよくするウォーキングやストレッチなどの適度な運動を心掛けましょう。
9.じんま疹
次の症例は29歳、女性です。
8ヶ月ほど南米のボリビアという国に滞在され、その間、何度か食中毒に罹患し、それ以後じんま疹がずっと出るようになり、平成21年3月17日来院されました。舌診で、舌が腫れぼったく、また歯型が辺縁についておりました。水毒によるじんま疹(症例120参照)と診断し、茵蔯五苓散(いんちんごれいさん)を2週間分投与しました。9日後に、来院されたときには、全くじんま疹は出なくなったと言われました。念のためもう2週間分お薬を渡して治療終了といたしました。
実は、水毒によるじんま疹は、西洋の薬が効きにくいと言われております。東洋医学を知っていればどちらでも治療できるわけで、皮膚科などで治りにくい、じんま疹の方は、ぜひ漢方薬をためしていただきたいと思います。
じんま疹については、症例107、120、153、220も参照してください。
じんま疹の原因について
例えば、サバなどの生ものを食べた直後に、かゆい皮疹が全身に現れる、代表的な急性じんま疹の他にも、寒冷や温熱により誘発される温度じんま疹、皮膚の機械的刺激により生ずる人工じんま疹、運動や風呂、急に体があったまった時や、興奮した時などに起こるコリン性じんま疹、日光に照射された皮膚に限局して起こる日光じんま疹など、実に多くの原因により起こることが分かっています。
しかしながら、原因がはっきりと断定できることは少なく、じんま疹の約80%は原因不明といわれています。症状が出てから数時間以内に消失することの多い、原因の明らかな食物によるじんま疹と違い、24時間以上たっても消えないじんま疹も、最近多く経験されます。
10.無月経
次の症例は45歳、女性です。
約半年前から無月経になり(基礎体温低め)、平成20年2月16日来院されました。足が冷えるが、顔は少しのぼせるそうです(いわゆる冷えのぼせ)。下肢に浮腫なし。どちらかというと乾燥するほうだそうです。舌は特に異常ありませんでしたが、下腹部に圧痛としこりをふれ、瘀血(おけつ)体質と考えられ、温経湯(うんけいとう;症例64、248参照)を開始しました。3月4日に来られた時は、「特に変化なし」でしたが、3月29日に来院されたときに、「生理がありました(1週間持続)」と、言われました。4月30日に、来院された時も、「2回目の生理がありました(9日間持続)」と、言われました。とにかく、「温経湯を飲むと体が温かくなり、体調がよい。」そうです。現在も続けて飲まれております。
温経湯(うんけいとう)は、やや慢性化した寒証(冷え症)で、皮膚乾燥などの栄養不良状態をともない、子宮出血と貧血・頻発、過多月経・無月経・不妊・月経痛・下腹痛などのみられるものに用います。
婦人科と関連する衝脈と任脈を温めて気の流れをよくすることで、結果として血を動かすので、「温経湯」と名付けられた。
衝脈と任脈は子宮から始まる経脈(気や血の通り道)で、衝脈は月経を調節する働きがあり、任脈は妊娠と関係がある、と言われています。
温経湯について
温経湯は体力が低下した冷え症の人で下腹部に膨満感があり手掌にほてり、口唇に乾燥感が見られるときに適しています。薬方には滋養、強壮作用がある麦門冬(ばくもんどう)、当帰(とうき)、人参(にんじん)、阿膠(あきょう)のほかに温剤の桂皮(けいひ)、生姜(しょうきょう)、呉茱萸(ごしゅゆ)、さらに瘀血を取り除く牡丹皮(ぼたんぴ)が含まれています。
11.生理痛
次の症例は22歳、女性です。
生理前になると憂うつになり、肩こり・冷え症もあります。また普段より、腹痛を伴う便秘・下痢の繰り返しがあります。排卵痛・生理痛もひどいため、平成19年9月14日来院されました。
疎経活血湯(そけいかっけつとう;症例1参照)と胃薬の安中散(あんちゅうさん;症例113、201、684参照)を処方しました。1ヵ月後来院されたときには、「食欲も増し、便通もよくなり、生理痛もかなりまし。」と、言われました。2ヵ月後には、「生理痛も全くなく、大変調子がよい。」と、おっしゃいました。
疎経活血湯と安中散の組み合わせは、生理痛によく出します。安中散は胃薬ですが、冷えによる腹痛や生理痛にもよく、延胡索(えんごさく)というあたため、瘀血体質を改善する生薬を含むため、胃腸症状にも生理痛にも効いたのだと思われます。
12.肩こり
次の症例は71歳、女性です。
左の肩こりが強いため整形外科にかかり、筋肉の緊張亢進を緩和する、ミオナールという薬を処方されるも、一向に改善しないため、平成21年4月3日来院されました。葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう)を2週間分処方しました。4月24日来られた時は、「9割ぐらいよくなりました。しかし、薬が切れて、2日ぐらいするとまた凝りだしました。」と、言われました。いきなり中止しないように話し、今度は1か月分処方しました。
この方のように、肩こりには、葛根湯より、葛根加朮附湯の方がよく効きます。だいたい何も考えずに出しても、7割の方に有効です。もし、効かない場合、気滞体質、瘀血体質、水毒体質、血虚体質を見極め、それぞれにあった他の方剤を出すようにしております。
葛根加朮附湯は、特殊例を除いて、上半身、特に腕や指、首筋、肩ぐらいに痛みやこりやしびれや腫れなどの症状がある時に使います。
もちろん腫脹がある場合はこれに茯苓を加えることもあります(下田 憲先生)。
13.総胆管結石を頻繁に繰り返す症例
次の症例は79歳、男性です。
平成10年頃より、総胆管結石の発作を頻繁に繰り返す、私が開業する前の、播磨病院に勤めていた頃からの症例です。半年から一年毎に、高熱・黄疸・腹痛の発作を起こしては、病院にお世話になり、内視鏡で結石を取っていただいておりました。西洋の胆汁の流れをよくする薬を入れるのですが、全く効きません。困っていた所、平成18年3月19日に、東海大学の新井信先生の漢方の講演会があり、終わった後に質問した所、自分にもそういう症例が一例あり、茵蔯五苓散(いんちんごれいさん)(症例9、じんま疹の症例で使った薬です)がよく効いていると教えてくださいましたので、さっそく平成18年5月9日から投与開始しました。するとそれ以後、平成23年1月に至るまでの約5年間、一度も総胆管結石の発作を起こさなくなりました。そればかりか、食欲も増したし、いい大便も出るようになったと大変喜んでいただきました。あらためて漢方のすばらしさを感じるとともに、漢方の有名な先生の見識の深さにも感銘いたした次第です。
14.不妊症
次の症例は31歳、女性です。
結婚3年目ですが、妊娠しないと、平成21年1月26日来院されました。足がむくみやすく、手足が冷え、肩こり、生理痛もひどいと訴えておられます。華奢な感じの女性です。冷え・むくみ・生理痛に使う、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん;症例112、113、158参照)と手足の冷えに使う当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)を合わせて処方したところ、3月下旬に妊娠が判明しました。4月28日現在つわりもなく、順調だとのことです。冷えがあるだけでやはり妊娠しにくくなるようです。
この方は運よく、すぐに妊娠されましたが、漢方の大御所の大塚敬節先生は、漢方薬で妊娠するためには、3年3ヶ月3日はあきらめずに飲む必要があるといわれています。
不妊症については、症例452もご参照ください。
当帰について
見目麗しき娘と結婚したら、その娘は、いわゆる婦人病で、床に伏しがち。あなたならどうしますか?
中国に昔話に登場する夫は、がっかりして家を出ました。娘は悲しみにくれます。そこで娘の父親は、何とか手当てをしてやりたいと、幾日も幾月も山野を歩き、薬草を探し求めました。そして、見つけた薬草が、「当帰(とうき)」でした。これを服用すると、娘の婦人病は治り、前より一層、美しくなったということです。
当帰を漢文風に判読すると「当(まさ)に帰るべし」となります。
病は治った、恋しい夫よ、妻のもとへ帰るべし、というわけです。
今日では、冷え性、生理不順、生理痛、不妊症、更年期障害、しもやけなど女性が悩む各種の疾患治療に配合される大切な生薬となっています。
また紫雲膏(しうんこう;症例54参照)という軟膏にも、当帰が配合されています。紫雲膏は、江戸時代にわが国で初めて全身麻酔下で手術を行ったあの華岡 青洲(はなおか せいしゅう)先生が、中国の潤肌膏(じゅんきこう)に手を加えて作ったものです。紫雲膏の出来上がりは、夕焼けに染まった雲の色、とても美しい赤紫色です。そして、水仕事で赤ぎれになったり、寒風でザラザラに荒れた肌を一両日くらいの塗布でつるつるにします。
やはり当帰は女性に必須の漢方薬ですね。
妊娠したら当帰芍薬散!(下田憲先生)
当帰芍薬散は安胎の薬の代表的なものなのです。
私が九州の離島にいた時、母子センターがあり、医者は私しかいないので助産師さんと何度も赤ちゃんをとりあげました。
我々の世代は正常分娩だったら心配しながらも何とかできたのです。当時この当帰芍薬散をよく使いました。
当帰芍薬散を妊娠当初から飲ませると、つわりも軽いし、妊娠中毒症もあまり出ませんし、赤ちやんも健やかですし、産後の日立ちも良いのです。私の妻が妊娠した時はいつも飲ませていました。習慣性流産の人にも何人か出しましたけれど、うまくいかなかった例はありません。前に切迫流産をした人でも、 ほとんどこれでくい止められます。そういう意味で安胎の薬と言えるのです。不妊治療には必ずしも当帰芍薬散は当てはまらないのです。桂枝茯苓丸の人でも妊娠したら当帰芍薬散の体に変ります。妊娠すると出産に備えて血液をどこかにプールするために見せかけの貧血になります。妊娠2週間ぐらいでおきます。その頃よく風邪症状が出ますが、当帰芍薬散や香蘇散を飲ませれば治まってしまいます。どうも本当の風邪ではなくて、丁度、妊娠による体の切り変りのようです。妊娠に気付かないと、強い抗生剤を使ったり、 消炎鎮痛剤を使ったり、あるいはレントゲン写真を撮ったりして大変な事になることがあります。
妊娠したら当帰芍薬散に体が切り変ります。
妊娠が成立したらほとんど当帰芍薬散になりますが、たまに温経湯の場合もあります。でもほとんどの場合、当帰芍薬散です。
15.気虚発熱(微熱が続く)
2週間ぐらい前より、食欲はまずまずでしたが、37.5℃ぐらいの微熱と、体のだるさ、頭痛、頭部ふらふら感出現し、平成20年8月19日来院されました。採血では、肝機能・腎機能等全く異常なく、白血球も7000で正常、炎症反応を示すCRPも0.21で正常でした。舌はぼてっとして気虚(ききょ)体質が疑われました。そこで、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を処方したところ、9月8日来院したときには、「すっかりよくなり、微熱も治まりました。」と、言われました。
漢方では、気虚が原因で発生する発熱を「気虚発熱(ききょはつねつ)」と呼びます」。
気虚発熱について
- かなり長期にわたり(数年のことが多い)、やや頻繁に反復して生じ、37~38℃程度が一般的で、高熱を呈することは稀である。
- 検査上異常を認めず、よく「不明熱」と診断され、放置されることが多い。
- 抗生物質・解熱剤は全く無効、ないしは悪化を招く。
- 学童・老人・回復期の病人・過労・虚弱者など、体力が充実していない、あるいは衰えた状況でよく見られ、精神的・肉体的な疲労の後に発症あるいは増悪する。
- 学童の場合、行事の度に「発熱」し、頻繁に学校を休まざるを得ないために、親子ともどもつらい思いをする。
- 「発熱」の時に、寒気・頭痛・身体痛などのかぜ症状を伴わない、などの特徴があります。
なぜ気虚発熱が起こるのかははっきりしていませんが、普段の生活で注意することは、温かい食事をよく噛んで食べることです。 このタイプの人は一度にたくさん食べられないので1日4~5回に分けてしっかり食事をするようにしましょう。
また、生姜や紫蘇(しそ)など温めるスパイスを使って、食べ物の消化をスムーズにする味付けを心がけてください。
あまりこってりして、後でもたれそうなメニューは少なめに食べるようにしたほうが無難でしょう。
また、規則正しい生活時間が大切です。特に夜は早めに休み質の良い睡眠を取ってください。
気虚発熱を治療する方法は、「甘温除熱」つまり、甘味があり温める生薬を用いて熱を除いてゆくことです。
そして「益気健脾(えっきけんぴ)」、つまり、食べ物からエネルギーを捉える部分である「脾」の働きを健康にすれば、次第に「気(エネルギー)」が増すので、体内の熱をしっかりコントロール出来るようになり、発熱は治まります。
よく用いる漢方薬は補中益気湯です。
補中益気湯は、漢方の古典といわれる中国の医書『内外傷弁惑論』に収載されている方で補気剤(元気不足を補う)の代表的漢方であることから「医王湯(いおうとう)」の別名があります。
とにかく漢方薬以外この「気虚発熱」の治療法は無いということです。
症例166、267、285も参照下さい。
16.皮膚科で治らない湿疹
次の症例は56歳、男性です。
平成17年8月中頃よりほぼ全身に拡がる湿疹が出現し、近くの総合病院皮膚科を受診し、抗アレルギー薬(アレジオン)とステロイド軟膏(トプシム)をもらったが、いっこうに改善しないため、平成17年9月6日来院されました。採血をしましたが、肝機能や腎機能に異常なく、一般血液検査も異常ありませんでした。消風散(しょうふうさん;症例220、314、315参照))を2週間分出し、様子をみてもらいましたが、2週間目に来院されたときには手の所にわずかに皮疹が残るのみでほぼ治癒していました。もう2週間分薬を出してそれ以後は来院されていません。
昔から夏に増悪する、ジュクジュクして、発赤したり、かさぶたをつくったりしてかゆみの強い皮疹には、消風散がよく効くといわれています。
17.過敏性腸症候群
次の症例は20歳、男性です。
他院で、下痢・腹痛があり、過敏性腸症候群と診断され、コロネル・トランコロン・セレキノンなどを処方されていましたが、夏は少しよいが、冬は全く効かないため平成20年1月12日来院されました。
便はベトベトした軟便で、便やおならの臭気が強いことが多いそうです。しかし、便がでるとすっきりするそうです。舌は黄色い苔が付着し、腹診では、みぞおちのところが硬くなっていました。
半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)を1か月分だしたところ、調子よくなられました。もう2ヶ月分処方し、以後来院されておりません。
半夏瀉心湯については、症例89、163を参照して下さい。
過敏性腸症候群については、症例17、80、186、189,192,197、327を参照してください。
18.肥満症
次の症例は78歳、男性です。
平成15年より、高血圧症・高脂血症で当院通院中の患者さんです。
身長172.5cm、体重78㎏(標準体重65㎏)で、肥満症があります。漢方薬での治療を希望されましたので、平成20年8月28日より、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)を開始しました。舌は、黄色い苔がべっとり付着し、「湿熱」と、考えられました。便秘はありませんでした。アルコールは毎日2合飲まれます。
また薬とともに、1時間のウオーキングもしていただきました。服用後順調に体重は減り、平成21年5月16日来院された時、73㎏になりました(5㎏減少)。
なお、肥満症については、症例221もご参照ください。
防風通聖散について
森道伯先生(1867~1931年)が創始した一貫堂(いっかんどう)医学(=症例27に解説していますので参照してください)によると、防風通聖散は、過食が誘引となる臓毒(ぞうどく)証体質(中風や糖尿病など生活習慣病やメタボリック症候群にかかりやすい体質)に使う薬とされています。全身性の肥満・食欲亢進・筋肉や皮膚の張りは良好・口が渇く・口臭がある・赤ら顔である・暑がり・汗かき・便秘があるなどの人に使います。
含まれる生薬のうち、”麻黄(まおう)”で基礎代謝を亢進させ、”大黄(だいおう)”や”芒硝(ぼうしょう)”などの下剤や、”滑石(かっせき)”は、それぞれ大便と尿から熱を体外へ排泄させます。
人間の体重は、吸収したエネルギーよりも消費したエネルギーが大きいときに減少します。
この薬は、脂肪を燃やす褐色脂肪細胞の働きを活発にして、脂肪分を燃やします。このような作用は、含まれる生薬のうち、麻黄(まおう)中のエフェドリンと連翹(れんぎょう)、甘草(かんぞう)に含まれる物質によることがわかっています。
しかし、運動もせず、カロリー摂取も減らさず、ただ防風通聖散を飲めばやせるということは絶対にありません。ダイエットの秘訣は、いかに摂取エネルギーを押さえ、消費エネルギーを増やして、体脂肪を蓄積させないようにすることです。特に、筋肉量を増やし、基礎体謝を上げることがポイントです。最終的に、体脂肪のたまらない体ができあがって、健康的かつ美しくダイエットし、高血圧、高脂血症、糖尿病、痛風などの生活習慣病から逃れることです。
また、防風通聖散は、上記のような方の皮膚化膿症や蕁麻疹などにもよく使います。
湿熱について
湿熱は、湿邪+熱邪が発病因子となったもので、尿の減少を伴う熱のことです。舌を見ると、舌苔がべっとりと厚いうえに黄色っぽい。湿熱の症状としては、身体が重だるい、胃がもたれる、口が粘る、小便の色が濃い、イライラして怒りっぽい、顔が脂ぎってテカテカしている、ニキビができやすい、などがある。体力が強くエネルギーのあり余っている人、日頃から辛いものや濃厚な味を好む人、アルコールを飲む人などは湿熱がこもりやすいといわれています。
19.不眠症
平成20年12月4日より、高血圧症で通院中の方です。平成21年1月8日来院した時に、不眠症を訴えられました。舌は脹れぼったく、白い苔がべっとりついていました。腹診では、臍の上で動悸を触れました。抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ;症例34、126、368参照)を処方しました。この薬は、女性の不眠症によく使う薬です。2月8日来院した時に、「よく寝れるようになった。」と、おっしゃいました。もう1か月分処方して廃薬としました。
不眠症については、「各種疾患の漢方治療」の不眠症の項を参照してください。
20.めまい
次の症例は22歳、女性です。
1ヶ月前より、めまい・耳鳴り・頭痛・肩こり・全身倦怠感・食欲不振があった。平成17年5月14日朝より、めまい(体がぐらぐらする感じ)がひどく、母親に体を支えられるようにして当院受診されました。採血では、Hb10.6と軽度の貧血を認めた以外異常ありませんでした。
舌診では、両側の舌の縁に、歯型が波打つようにつく歯痕舌を認め、腹診では、臍の上で動悸を触れた。胃内停水音(いないていすいおん)(動いた時や胃の辺りを叩いた時などに、胃の所でチャプチャプと音がするような状態を、漢方では胃内停水と言います。これは胃に余分な水分が溜まってしまった状態です)も認めた。
水毒によるめまいと診断し、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)を開始しました。2週間後再診した時に、軽度の頭痛以外は全く異常なく、別人のように元気になられ、「ごはんもおいしいです。」と、言われた。もう2週間分処方し、廃薬としました。
苓桂朮甘湯の効くめまい
天井がぐるぐる回るような激しいめまいには効きません。体位を動かしたときになんとなく、体がぐらぐらする程度のめまい感なのです。ホロプシーといって、そばにある物をじっと見ていると、急に遠くあるいは小さく見えたり、地震でもないのにぐらぐら揺れて見えたりします。
めまいについては、「各種疾患の漢方治療」のめまいの項を参照してください。
21.頚椎性頭痛
次の症例は41歳、女性です。
両方の肩こり、頚から耳の後ろから側頭部にかけての痛みがあり、平成21年2月13日当院へ、来院されました。便秘もあるとのことです。この方の舌を見ると、紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、瘀血(おけつ)体質と診断いたしました。腹診では特に異常を認めませんでした。最初に肩こりによく効く葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう)を2週間分処方しました。しかし、全く無効でしたので、瘀血(おけつ)体質に使う桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん;症例67参照)と、上部頚椎の関節症によく使う治打撲一方(じだぼくいっぽう;症例227参照)を合わせて、3月12日に処方しました。
4月13日に来院された時、「全く痛みはとれました。」と、言われ、便秘も改善しました。もう一ヶ月分処方し、それ以後来院されておりません。
治打撲一方(じだぼうくいっぽう)は、読んで字のごとく、打撲のときの瘀血をとる薬(骨折、捻挫にもよい)ですが、この症例のように、上部頚椎の関節症にもよく効きます。大黄という、下剤を少し含みますので、便秘にも効きます。
当院では、最近もう一例、同じ組み合わせで、61歳の女性の方の頚椎性頭痛を治しております。
22.水毒による頭痛
次の症例は31歳、女性です。
平成21年5月初め頃より頭痛がひどく、毎日のように解熱鎮痛薬の”ロキソニン”を飲んでいるが、おさまらず市内の総合病院受診し、採血・検尿などの検査を受けるも異常なく、漢方治療の適応と判断され、平成21年6月2日当院へ紹介されました。他に下痢しやすい・口内炎ができやすい・体がだるい・疲れやすいなどの症状もみられました。この方の舌を見ると、厚くはれぼったい感じがし、また、両側の舌の縁に、歯型が波打つようについていました(歯痕舌(しこんぜつ))。水毒+気虚体質と判断し、水毒の頭痛に使う、五苓散(ごれいさん;症例120参照)と、気虚で軟便を治し、体力をあげる、人参湯(にんじんとう;症例8参照)を2週間分処方しました。平成21年6月16日再診時には、頭痛もおさまり、下痢も消失し、体調がすごくよくなったと喜んでいただきました。
胃腸の悪い人にとって、「西洋薬の鎮痛剤を飲まなければいけない。」ということは、ますます胃腸を悪くしますので、どんどん悪循環に陥り、体をこわしてしまいますので、絶対に避けなければならないと思います。水毒による頭痛は、水毒を治す薬でないと治らないのです。
頭痛については、「各種疾患の漢方治療」の頭痛の項を参照してください。
23.朝のこわばり(関節リウマチが心配)
次の症例は67歳、女性です。
今年の初め頃より、朝に、手のこわばりが出現。特に、親指と中指が曲がりにくく、痛むため、平成21年5月18日当院へ来院されました。関節リウマチを心配されましたので、採血をしましたところ、リウマチ反応は陰性で、炎症反応(CRP)も0.03と正常でした。
この方の舌を見ると、紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、また、下肢に静脈瘤を認めましたので、瘀血(おけつ)体質と診断いたしました。手指の局所には炎症があり、浮腫(ふしゅ)とうっ血が腱の正常な可動性を制限していると考え、瘀血体質のうっ血をとるため、加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141参照)と、冷えによる関節の腫れや痛みをとる桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう;症例104、124、203、206、319参照)を2週間分合わせて処方しました。5月23日再診時には、「朝のこわばりも、痛みも消失しました。」と、喜んでいただきました。
瘀血(おけつ)は本当にいろいろと、体調を悪くしますのでやっかいです。
朝のこわばりについて
「朝起きたときに、手がこわばって動かしにくい」「物が上手につかめない」。このような症状を、医学用語で「朝のこわばり:Morning Stiffness」と呼び、関節リウマチや膠原病(こうげんびょう)、変形性関節症などに認められる臨床症状です。
こわばりは起床後、時間とともに改善し、本来の動きを取り戻しますが、人によっては持続時間が短い場合(5~10分)もあれば、改善されるまでに数時間を要するような場合もあります。また、手に限らず、全身の関節にそのようなこわばりを認めることがあります。このような持続時間の長い朝のこわばりがある場合や、さらに関節に腫れや痛みがある場合は、関節リウマチや膠原病の初期症状の場合があります。
24.眼瞼痙攣・歯ぎしり・いらいら・不眠・あくび等多彩な症状
次の症例は44歳、女性です。
職場の人間関係(同僚に悪口を言われる)や、一人息子が東京で下宿生活するなどの心配事が重なり、いろいろな多彩な症状が出現し、平成21年1月27日当院へ来院されました。上記症状のほかにも頬の筋肉がひきつる・食欲がない・動悸がする・呼吸が急にしにくくなるなどの症状もあります。また診察時につらくて泣き出されました。腹診では腹直筋が緊張し、舌は気滞の舌(⇒舌診について参照)でした。肝気鬱結(下記参照)に、五臓(五臓についてはこちらで学習して下さい田辺三菱製薬生薬学校)の、「心」も弱っていると考え、抑肝散(よくかんさん;症例25、278参照)と、胃腸が弱く疲れやすいく、あくびを頻発する人が神経を使いすぎて、神経衰弱症状(心気虚:しんききょ)を来たしたときなどに使う甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)を処方し、症状が強いので、西洋薬の”パキシル”という抗うつ剤の最小量(10mg)と”セルシン”という睡眠薬も合わせて出しました。1ヵ月後の2月24日にはだいぶ表情が明るくなってきました。さらに1ヵ月後の3月30日には本人の口から「よく眠れて、いらいらも消え、調子よくなってきた。」との言葉が出ました。その時点で睡眠薬の”セルシン”を中止し、5月下旬で抗うつ剤も中止し、現在は漢方薬だけで調子がよい状態が続いております。
肝気鬱結(症例175参照)
人間、思い通りにいかない場合、その不満を吐き出す事ができる場合はよいのですが、普通の大人はこうは行きません。仕事に不満があっても、人間関係で悩んでいても、自分の胸の内にしまいこんでしまう事の方がたくさんあります。発散して気分転換したいのですが、それがヘタで胸の奥へとしまいこんでしまうという事が多々あります。
そんな時に、何となくイライラする、つまらないことが気にかかる、怒りっぽい、のぼせやすい、不眠、わき腹に張りや痛みがあるといった精神失調の状態を、東洋医学では五臓の「肝」のトラブルの一つ、「肝気鬱結(かんきうっけつ)」と表現します。
古来、中国医学では「肝」を精神との関連が強い臓器としてとらえています。肝は、精神のセルフコントロールがスムーズに行われるような状態を作りだし、私たちが社会生活にうまく適応できるように働きかけている臓器とされています。
この調節作用は、「気」をスムーズに巡らせることによって運行されると考えられています。ところが、精神的なストレスは肝の働きをにぶらせ、気の流れが悪い全身状態を作り出してしまいます。「気」は全身を流れています。何らかの原因によって気の流れが悪くなると、「気滞(きたい)」という状態になります。なかでも精神的なストレスが原因となるものを「気鬱(きうつ)」といい、「肝」に発生したものを「肝気鬱結(かんきうっけつ)」といいます。
基本的な症状は、「イライラまたは不安などの神経症状」、「痛み」、「脹満(ちょうまん)」です。
「神経症状」には、パニックなどの急性発作の他に、頭痛、頭重、睡眠異常などもあります。
「脹満」ですが、胸脇に起これば胸(乳房)が張り、ブラジャーがきつくなり、喉に起これば、「喉のいらいら・異物感」が起こり、胃腸に起これば胃や腹の張り・痛み・便秘・しぶり便などの症状が現れます。
「肝気鬱結」した人は、なんとなく『グズグズ』いいます。その一方、一つの事に対してはものすごく神経質になります。何か変な夢を見たりもします。
こんなストレス解消がヘタで、気分がさえない方に、漢方は体の面と気持ちの面との両方からアプローチする術をもっています(心身一如:しんしんいちにょ) 。
25.いらいら・不眠・多怒・性急
もう1例「肝気鬱結」の症例を紹介いたします。
症例は66歳、男性です。
身長165.5cm、体重50.4kg、BMI18.1。
高血圧等で当院通院中でしたが、奥様がご主人に内緒で、「最近いらいらして、自分や孫に当り散らす」・「家がきちんと片付けてないとすぐ怒る」・「すごくせっかちになった」・「神経過敏になって、夜も寝れてないようだ」と、平成19年7月27日当院へ来院されました。自分はいいが、このままでは、「孫が自分たちに寄り付かなくなってしまう。」と、切実でした。ご本人を診ていませんが、問診から容易に「肝気鬱結」と考えられましたので、、抑肝散(よくかんさん;症例278参照)を、1ヶ月分処方いたしました。1ヶ月後に奥様が来られ、「おかげさまで夫がいらいらしなくなり、とても穏やかになりました。」と、感謝してくださいました。
このように、現代のストレス社会では、ますます「肝気鬱結」は増加していくと思われ、漢方薬がますます必要とされていくと思います。
なお、抑肝散の適応する使用目標は次のとおりです。
- 長く苦しんだ病後、または虚弱気味で疲れている
(本症例も十二指腸潰瘍の術後より、食が細く、やせて(166.9cm、48kg、BMI17.2)、しょちゅう、肺炎で入院したりする大変虚弱な方です)。 - 不機嫌でイライラし、怒りやすい。
- 神経過敏、またはせっかちである。
- 興奮して夜眠れない。
- 筋肉がけいれんしたり、緊張する。
26.小児の下痢・(低身長・小児虚弱体質)
次の症例は3歳9ヶ月、女児です。
ずっと下痢が続くため幼稚園の先生に病院へ行くように言われ、平成17年5月9日当院受診しました。 身長 94cm、体重12kg(標準身長 97cm、体重15kg)。
舌診では特に異常を認めず、 腹診では腹直筋緊張(;症例279参照)を認めました。西洋薬の下痢止めである、ロペミン細粒を11日間投与しましたが、下痢は全く改善せず、6月3日より、小建中湯(しょうけんちゅうとう)を開始したところ、2週間目ぐらいより週1回ぐらいに下痢の回数が減り、1ヶ月目には全く下痢しなくなりました。その後、小建中湯を飲み続けたところ、半年間でなんと身長が、94cmから101cmへ7cm伸び、クラスで1番前だった身長が、後から2番目になりました。それだけでなく、小建中湯投与前は予防接種時には、クリニック玄関に入る前から泣いていたのが、半年後には注射をしても全く泣かなくなり、精神的にもたくましくなりました。
(小児の虚弱体質については、症例29・109・145・190・192・321・713も参照して下さい)
小児に小建中湯用いるポイント=小児の虚弱体質に用いる。
- 過緊張による便秘(症例190、631参照)・下痢。
- 食が細い。間食が多い。甘い物を好む。食べても肥えない。
- 目が大きい(=疳(かん)が強い)。
- まつげが長い(=過敏性体質の子供が多い)。
- 腹を触るとくすぐったがる。
- 子供のくせによく、「足がだるい・痛い」という
- 口唇がかさかさ乾燥し、ひび割れる
- おねしょ
- 汗をかきやすい。寝入りばなの頭汗
- 鼻血が出やすい‥お母さんたちは鼻血がでたら耳鼻科に連れて行き、何ヶ月も通いますが、そういう子でも小建中湯をのませればその日から全く鼻血がでなくなります。鼻血というのは小児の虚弱体質の診断基準にしてもよいくらいです。鼻をほじったりとかいう、外因が何もなさそうなのに鼻血が出るというのが特徴です。⇒「症例29、症例145、症例284」を参照してください。
27.慢性の鼻炎
次の症例は34歳、男性です。
ハウスダストによるアレルギー性鼻炎が年中続き、市販の点鼻薬を使ってもよくならないと、平成19年2月24日当院受診されました。体の色がやや浅黒く、舌には白苔がみられました。荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)を一か月分処方したところ、著効し、一度も点鼻薬を使わずにすんだと喜ばれました。
一貫堂(いっかんどう)医学について
一貫堂医学とは漢方の流派の名前で、昭和初期に日本で生まれた漢方です。森道伯先生が始められ、病気はアレルギー物質が、体内で何らかの毒(熱)になり、気血の流れを乱して発病すると考えています。そして患者の体質を、①解毒証(げどくしょう)体質、②臓毒証(ぞうどくしょう)体質、③瘀血証(おけつしょう)体質の3つのタイプに分けています。さらに小児期、青年期、壮年期の各年代別に分けて主に柴胡清肝湯(さいこせいかんとう)、荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)、竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)、通導散(つうどうさん)の5つの処方を自在に組み合わせて排毒を主とした治療をするとされています。
荊芥連翹湯は、解毒証体質の青年期に用いる処方です。
解毒証体質とは生まれつき解毒作用が弱く、いろいろな毒素を解毒排泄できないために、幼少時より発病しやすい体質である。(戦前は結核等感染症になりやすかった。現在はアレルギー体質の人に多い。)
アトピー性皮膚炎、慢性蕁麻疹、ニキビ、などの皮膚病や、扁桃炎、リンパ節炎、鼻炎、蓄膿症などの炎症性疾患によく使います。⇒症例6、にきび参照してください。
28.右下腿の痛み
次の症例は67歳、女性です。
平成19年2月頃より右下腿外側(外くるぶしの上方10cmあたり)の痛みが出現、特に夜間に痛みが増強したそうです。近くの整形外科受診し、腰のMRIの検査をしてもらったが異常を認めず、PWV(脈波伝搬速度)の検査の結果、「動脈硬化が原因ではないか」と言われ、鎮痛剤とビタミンEを処方されたが全く効かず、リハビリを続けたがそれも効かないため、平成19年5月11日当院受診されました。この方の舌を見ると、紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、瘀血(おけつ)体質と診断いたしました。そこで、瘀血体質の神経痛に使う、疎経活血湯(そけいかっけつとう;症例1参照)と、瘀血体質を改善する、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)という方剤を2週間分処方しました。そうすると、痛みが少しましになるとともに、痛みが足の甲の方に移動してきました。そのまま薬を続け、2ヵ月後の7月9日来院された時に、「痛みが完全に消えました。」と言われ、大変喜んでいただきました。
瘀血による痛みは、ビタミンEでよくなるはずはなく、瘀血をとる薬でしか治すことはできないのです!
29.よく下痢をする・鼻血が出やすい(小児虚弱体質)
次の症例は8歳、男児です。
吐き気がする、しんどいとの訴えで、平成19年11月14日当院受診されました。よく聞くと鼻血をしょっちゅう出す、何かあればすぐ下痢をするなどの症状もありました。口唇がかさかさ乾燥し、ひび割れていました。舌診では特に異常を認めず、 腹診では腹直筋緊張を認めました。典型的な小建中湯(しょうけんちゅうとう;症例26、109、145、190、192、321参照)の証でしたので、2週間分処方しました。11月28日、お母さんが薬を取りに来られましたが、自分で毎日お湯で溶いて飲んでいるとのことでした。12月13日38.3℃の熱を出し、検査の結果インフルエンザA型でしたが、タミフルではなく、桂麻各半湯(けいまかくはんとう)を出しよくなりました。
その後、現在に至るまでずっと小建中湯を飲まれていますが、それ以後一度も風邪は引かず、鼻血も出なくなり、随分体調はいいようですが、まだ胃腸は弱めのようで、平成21年7月2日、「プールに入るとその後下痢をする。」との訴えがありましたので、おなかをぬくめて下痢を抑える人参湯(にんじんとう;症例8参照)をプールの後飲むように処方させていただきました。
⇒症例26、「小児の下痢・(低身長・小児虚弱体質)」参照
30.非結核性抗酸菌症(1)
次の症例は66歳、女性です。
平成20年5月のはじめ頃から繰り返し発熱(微熱)し、近医で抗生剤の投与を受けましたが、あまりよくならず、6月に姫路市の総合病院の呼吸器科に紹介され、そこで気管支鏡の検査を受けた結果、肺炎球菌による肺炎と診断されたそうです。その後も繰り返し発熱し、その度に抗生剤を投与され、12月になりようやく痰の検査で非結核性抗酸菌症と診断されましたが、度重なる抗生剤の投与ですっかり胃が悪くなり、手足が冷え、体もだるく、咳・茶褐色の痰・微熱も続くため漢方治療を求めて、平成20年12月19日当院受診されました。身長156cm、体重39kgとかなり痩せが目立ちます。
最初に、薬で弱った胃をよくするため(=「気虚」を改善するため)に、人参湯(にんじんとう;症例8参照) におなかを温める、附子(ぶし)を混ぜ(これを附子理中湯と呼びます)3ヶ月間治療しました。その後平成21年4月1日に38.6℃の発熱を来たしたため、非結核性抗酸菌症によく使う、人参養栄湯(にんじんようえいとう)を開始しましたところ、3日で解熱しました。咳がひどく黄色の痰が多いとのことでしたので、4月24日から清肺湯(せいはいとう)を併用しました。その後どんどんよくなられ、熱も最高で36.7℃になったため、5月20日に採血したところ、白血球数が5600、炎症反応のCRPが0.1と正常になりました。胸の写真も以前のがないので比較はできませんが、患者さんが言われるのには随分きれいになっているとのことでした。7月6日に来られた時には「黄色の痰が1日1回ぐらいでますが、体調はすごくよいです。」といわれました。現在は清肺湯は中止し、人参養栄湯のみで治療しております。当院に来られてからは一度も抗生剤を使用することなく経過しております。
この症例の1年後の状況
平成22年6月16日、外来へ来られ、「現在症状は何もありません。今年3月以後、痰も全く出なくなりました。それまでは、寝る時、30分ぐらい痰が涌いて出てくる感じで、それがすっきりするまで眠れませんでした。今は体も疲れにくくなり、本当に調子いいです。」と、いわれました。
症例142、173も参照して下さい
私の尊敬する、下田憲先生はこう話されました。「非結核性抗酸菌症は抗結核剤もあまり効かないし、放っておいてもどんどん他人に感染するとか、本人の命にかかわるといった病気ではないのです。本人の体力をあげて、病気と平和共存して生きていけばいいはずなのに、西洋医学的スタンスだったら、感染症というものは絶対なくならなければいけないのです。だから何が何でも、とにかく副作用が出ようが何であろうが抑えようとしますが、非結核性抗酸菌症は延々とやってもうまくいかないことが多いのです。でもうまく体力を上げて肺の働きを高めてあげると、それはそれとして、あってもたいしたことにはならないで暮らしていけるのです。」
最近、抗生剤が効かない耐性菌が問題になっていますが、現代医学もそろそろ反省すべき時が来ているのではないでしょうか。この症例をみてそう思うのは私だけでしょうか。
非結核性抗酸菌症
検診で胸部レントゲン検査上、異常陰影を指摘され、「結核菌の仲間だが人にうつさない。」といわれる場合があります。結核菌の仲間で結核とは違うといわれるのは非結核性抗酸菌症(長い間非定型抗酸菌症と呼ばれてきました)と呼ばれる菌で、土壌や水中などの自然環境に広く存在しています。抗酸菌には結核菌・らい菌・非結核性抗酸菌があり、前2者以外の抗酸菌をすべて非結核性抗酸菌症と呼び、毎年のように新しい菌が見つかっています(現在150菌種以上の菌種が発見されている)。
抗酸菌というのは酸に抗う(あらがう)と書きますが、実際胃の酸にも強く、夜間の咳などで排菌した菌を飲み込んでいる場合があり、痰が出ない場合、胃液を検査することにより、診断がつくことがあります。
健康体の方は、非結核性抗酸菌が気道を介して侵入しても、通常は速やかに排除されて容易に病気を生じません。ただしいろいろな要因(必ずしも未だ十分解明されていません)が重なると、感染が成り立ち、肺結核性抗酸菌症を生じうると考えられています。
日本で多い菌種は、アビウムコンプレックス(別名マック症): 70%以上、カンサシ:10~20%、この2種類で90%以上をしめます。
マック症は中高年女性に発症することが多く、初期は無症状で、肺の中下肺野に多発性の小結節や気管支拡張像が認められることが多いのですが、突然血痰が出て、レントゲンを撮り発見されることもあります。症状としては咳・倦怠感、進展すると発熱・体重減少・喀血・息切れが生じることもあります。カンサシは男性に多く、肺の上葉に空洞を生じることが多く、この菌種のみ、人から人への感染がありうるかもしれないといわれています。
カンサシに関しては通常結核菌の治療に使われる薬剤が有効ですが、3剤を菌陰性化後も1年間投与する必要があります。
イソニアジド 5 mg / kg(300 mg まで)/日 分1
リファンピシン 10 mg / kg(600 mg まで)/日 分1
エタンブトール 15 mg / kg(750 mg まで)/日 分1
(結核よりも投与期間が長いのでこの投与量でもエタンブトールによる視力障害の発生に注意を要する。)
日本で最も多いマック症は最も治療が困難であり、経過の長い慢性感染の方が多く、排菌が続いている場合は、
リファンピシン 10 mg / kg(600 mg まで)/日 分1
エタンブトール 15 mg / kg(750 mg まで)/日 分1
クラリスロマイシン 600~800 mg ⁄日(15~20 mg / kg) 分1 または分2(800 mg は分2 とする)
ストレプトマイシンまたはカナマイシンの各々15 mg / kg 以下(1000 mg まで)を週2 回または3 回筋注 (肺MAC症化学療法の用量と用法;2012年改訂版)
初回治療でかなり改善の認められる方もいらっしゃいますが、いったん減少した排菌量が治療中にもかかわらず、再増加する場合もあり、治療を断念することも多く、無症状で排菌の少ない方の治療方針はまだ明確になっていません。いざ治療となると、クラリスロマイシンですと200mgの大きな錠剤を通常感染時の1.5~2倍量である600~800mgを毎日、ストレプトマイシンかカナマイシンの筋肉注射を週2~3回が加わりますので、患者さんとしては、胃腸障害・聴力低下など体にかなりの負担になることは間違いなく、治療の続行にも困難があります。
「抗酸菌」というのは、細菌を人間が恣意的に分類した時の、1つの区分のことです。
一旦色素で染めた細菌を、「酸で脱色する」、という操作をすると、大抵の菌は脱色されるのですが、中に脱色されない細菌が存在します。これが「抗酸菌」です。
「抗酸菌」の中で最も知られているのは、皆さんお馴染みの「結核菌」です。ただ、「抗酸菌」の仲間には、「結核菌」以外の細菌も存在していて、そうした菌による人間の感染症もあることが、次第に明らかになって来ました。
この結核菌以外の抗酸菌のことを、まとめて「非結核性抗酸菌」と呼んでいるのです。
この名称は比較的最近のもので、それ以前には「非定型抗酸菌」と呼ばれていました。以前には、結核こそ抗酸菌の代表だ、と考えられていたので、「非定型」という仲間外れのような言い方をしたのですが、詳細が分かってみると、多くの抗酸菌の中での、変り種が結核菌だ、ということが判明したので、名称が変更されたのです。
この結核菌以外の抗酸菌は、河の水などに主に生息しています。従って、生水を飲むと、感染する可能性があります。
また、最近では24時間循環タイプの風呂の水や、シャワーの水からの感染が問題となっています。塩素の殺菌効果は、抗酸菌に対しては、十分でないことが多いのです。
「非結核性抗酸菌」の感染症は、最近増えているという報告があります。これは結核が減ったための相対的な増加ではないか、という説がある一方で、菌自体の変化や、人間の側の免疫状態の変化が、その背景にあるのではないか、という説もあります。
「非結核性抗酸菌」の感染症で、一番問題になるのは、「治療をするべきかどうか?」という決断です。
この病気はじわじわと進行することが多いのですが、その進行のスピードは遅く、症状も結核と比べれば軽度で、軽い咳や息切れ程度のことが多く、全く症状のないことも稀ではありません。
従って、症状で発見されるよりも、たまたま健診などで撮ったレントゲンで、異常を指摘されて診断されることの方が多いのです。
ある統計では、重症例を含めても、5年で悪化したのは6割程度で、軽症例では、悪化は1割程度という結果でした。しかも、結核のように他人には移りません。それでも、有効性の高い治療があれば、あまり迷わないのですが、複数の抗菌剤を結構高用量で使用し、その期間も1年半から2年に渡ることも稀ではなく、その上再発率も1割~3割と高率なのです。
つまり結核とほぼ同等の治療を、結核と同じくらいの期間続けなければならず、それでいて、その効果は結核より低いのです。副作用も高率に起こります。
それで放っておいても、あまり悪くならないのだとしたら、その治療の選択は非常に迷うところです。
31.鼻出血
次の症例は56歳、女性です。
普段胃腸が悪く慢性の下痢や体のだるさがあり(気虚体質)、啓脾湯(けいひとう)や補中益気湯(ほちゅうえっきとう;症例15参照)などを投与しております。最近顔がのぼせたようになり、夕方によく鼻血が出るようになったとのことで、平成21年7月10日当院受診されました。身長 154cm、体重51kg。念のため、全身の血液疾患がないか血液検査をしましたが、異常なく白血病などの心配はなさそうでした。黄連解毒湯(おうれんげどくとう;症例105参照)を夕方に1包頓服で飲むように指導したところ、首から上がスゥーとして、それ以後、鼻血は出なくなりました。
鼻出血にとても有効、漢方と刺絡併用療法
漢方では、このような鼻血は体の上部(漢方では上焦(じょうしょう)と呼ぶ)の熱と考え、それを冷ます薬、たとえば黄連解毒湯(おうれんげどくとう)や三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)を処方します。
また、薬とともに、両手の第1指(おや指)の爪床のやや外側にある少商(しょうしょう)というツボに、刺絡をします。
具体的には、少商の部分をアルコールで消毒してから、23ゲージの注射針を、瞬間刺します。どちらの指でもいいのですが、原則として患側(鼻血の出た側)に刺します。刺しすぎてはいけません。出血させる量は、大体7~8滴、せいぜい10滴くらいです。後はガーゼでおさえて止めます。本当に鼻血によく効きます。なお、このツボはくしやみや鼻水にも効きます。
黄連解毒湯についてさらに知りたい人は、こちらをクリックツムラ・メディカル・トゥデイ
32.こむらがえり
次の症例は73歳、女性です。
平成18年4月12日午後3時頃より、突然左わき腹痛出現。「痛い、痛い。」と、泣き叫びながら来院されました。心電図・胸部X線検査をしましたが、特に異常ありませんでした。左わき腹の「こむらがえり」と診断し、芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)2包をお湯に溶き、その場で飲んでいただき、同時にストップウォッチで計測を開始しました。約2分30秒後、痛みは半分以下になり、5分以内に痛みはおさまりました。
芍薬甘草湯は漢方の古典書に、「発汗が過多ののち、邪気(じゃき)が内に迫って筋肉の拘急(こうきゅう;緊張亢進状態)、腰脚の攣急(れんきゅう;ひきつけ)などが出たときに、攣急や疼痛を緩解させる目的で頓服として用いる。」と、記されており、まさに“こむらがえり”の症状にあてはまります。症状が激しいときにも、飲むとたちまち杖が要らなくなることから、別名、「去杖湯(きょじょとう)」とも言うのも納得できます。
「こむらがえり(腓返り)」、またはこぶら返りとは?
腓(こむら、こぶら=ふくらはぎ)に起こる筋痙攣の総称です。「(足が)攣(つ)る」ともいいます。特に腓腹筋に起こりやすいため、腓腹筋痙攣と同義とみなすこともあります。
「こむら」とは、ふくらはぎのことで、こむらがえりは、就寝中あるいは運動時におこる足の腓腹(ひふく)筋の、疼痛を伴うけいれんのことです。筋肉の過労、下腿静脈の循環障害などの際におこりやすいです。就寝中におこるものは、歩行中や運動中におこるものとは異なり、血行とは無関係で、筋肉の受動的な収縮によっておこるとされています。眠っている間に、シーツなどに足首がひっかかって伸び、足先が下を向くため、ふくらはぎと足の裏の筋肉が収縮させられるためにおこると説明されており、伸筋運動などの体操で予防できるといわれています。
原因の多くは「ミネラル不足による筋肉の異常収縮」です。そのため、黄砂の影響や熱中症の前兆で起こることもあります。全身の筋肉で起こり得ます。
33.掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)の漢方治療
次の症例は75歳、男性です。
平成19年7月頃より両方の手のひら(特に右手に多い)に、ウミが溜まった膿疱が出現し、近くの総合病院の皮膚科受診するも全く改善しないため、平成19年8月17日当院受診されました。この方の舌を見ると、紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、瘀血(おけつ)体質と診断いたしました。また、やや黄色がかった苔が付着しており、腹診では、右季肋部に軽い抵抗を認めました。そこで、瘀血体質に使う代表的な方剤である桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん;症例67参照)と荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう;症例27参照)を併用して処方しました。荊芥連翹湯は、「慢性の鼻炎」のところで述べましたが、解毒証体質の青年期に用いる処方です。
1ヵ月後、すっかりよくなったと喜んでいただきました。
その後順調でしたが、ちょうど1年たった平成20年8月18日、再発し、当院へ再度受診されました。再び同じ薬を1か月分処方しましたが、今回は治りが悪いとのことでした。よく聞くと皮膚がかさかさして「あかぎれ」のようになるとのことです。これは漢方では、「血虚」という状態ですので、今度は桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)に血虚に使う四物湯(しもつとう;症例54参照)を合わせて1か月分処方したところ、10月20日来院され、「すっかりよくなった」と言われました。そこでまた1ヶ月分処方しました。11月21日来院され、「2日程薬を飲まなければすぐあかぎれのようになり、薬を飲むとすぐよくなった。四物湯がよく効いている」と言われました。そこであともう1ヶ月分処方し、治療を終えました。
掌蹠膿疱症については、症例121、323も参照ください。
掌蹠膿疱症
掌蹠膿疱症はウミが溜まった膿疱と呼ばれる皮疹が手のひら(手掌)や足の裏(足蹠)に数多くみられる病気で、周期的に良くなったり、悪くなったりを繰り返します。ときに、足と手のほかにスネや膝にも皮疹が出ることがあります。皮疹は小さな水ぶくれ(水疱)が生じ、次第に膿疱に変化します。その後、かさぶた(痂皮)となり、角層(皮膚の最表層にある薄い層)がはげ落ちます。後にこれらの皮疹が混じった状態になります。出始めに、よくかゆくなります。また、鎖骨や胸の中央(胸鎖肋関節症)やその他の関節が痛くなることがあります。
原因は、現在のところは不明です。欧米では、乾癬の一亜型とする考え方が有力です。日本では乾癬とは無関係で、病巣感染や金属アレルギーを原因として重視する考え方が有力です。喫煙者に多い病気です。
ステロイド薬の外用、エトレチナート(チガソン)の内服、免疫抑制薬(ネオーラル)の内服、紫外線療法などがありますが、根治は難しい病気です。
34.耳鳴りの漢方治療
次の症例は76歳、女性です。
28年前、ご主人が肺がんの手術をされた時、看病疲れから右の耳鳴りが出現。ストレスが原因といわれ、治療を受けたが改善しなかったそうです。今度は1年前より左の耳鳴り(新幹線が走るような「ゴォー」という音で、走って逃げ出したいような音)が出現し、平成21年3月3日、漢方治療を目的に当院受診されました。舌は白い苔が付着していました。腹診では下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))を認め、腎虚(腎虚についてはこちら 田辺三菱製薬生薬学校)と考えられました。ストレスによく使う抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ;19、126、368)と腎虚に使う六味丸(ろくみがん)を1ヶ月分処方しました。4月27日来院された時は「変化なし」でしたが、6月1日来院された時には、「気分的に楽になり、耳鳴りのうっとうしさが少し気にならなくなり、外へ出ようという気がしてきた」といわれました。そして、7月23日来られたときは随分明るい顔つきで、「ほとんど耳鳴りが気にならなくなった」と、おっしゃいました。このまましばらく続ける予定です。
耳鳴りの治療は漢方薬でも難しいです。ストレスからくるものは何とかなりますが、老化そのものでしたらまず治癒しません。この方の場合はストレスが主だったのかもしれません。抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)がよく効いたのだと思います。
耳鳴りの症例は131、342、430にも載せております。
35.瘀血による腹部膨満感
次の症例は62歳、男性です。
平成18年2月中旬より体がだるく、腹部膨満感が出現したため、2月27日、総合病院消化器内科受診し、種々の検査(胃・大腸内視鏡検査・腹部超音波検査など)を受けたが、異常なしといわれ、ガスモチン(胃腸管支配の神経に働いて、消化管の運動を促進させる薬)という薬を投薬されました。しかし、症状の改善見られず、平成18年3月29日当院受診されました。身長168㎝、体重82㎏。舌は、紫色がかり、舌下静脈の怒張を認めました。腹診では、S状結腸部(左下腹部)に瘀血のしこりと圧痛を認めました。便通1回/日で、軟便傾向です。
瘀血体質による腹部膨満感と診断し、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)を1ヵ月分処方しました。 1ヶ月後来院し、体のだるいのも、腹部膨満感もとれ調子よくなったと感謝されました。
瘀血は下記のように本当にいろいろな悪さをしますので、やっかいです。
瘀血の自覚的症候
1)血管神経症候;のぼせ、ほてり、頭痛、頭重、足の冷え
2)筋骨格症候;肩こり、腰痛、各種神経痛、頸肩腕症候群、上下肢脱力感
3)皮膚分泌異常;口躁感、発汗
4)消化器症候;黒色便、便秘、腹部膨満感(視診、触診では、腹が膨満していないのに、患者は自覚的に膨満感を訴えることが多い;矢数道明先生)
5)泌尿、生殖器症候;月経異常、凝血、月経随伴症状、不妊、頻尿、残尿感
6)精神的症候;焦燥、多怒、錯乱、記銘力低下、不眠、興奮、不安
7)痛み(固定性、持続性)