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251.股関節痛の漢方治療(2)

症例180に続き股関節痛の症例を載せます。
症例は42歳女性です。
右股関節の痛みに加え、右の腰から臀部にかけての痛みもあり、漢方治療を求めて、平成23年9月16日来院されました。
自分の母親も、変形性股関節症で右の股関節に人工骨頭置換術の手術を受けているそうです。
冷え症が強く、そのわりに上半身は少しのぼせるそうです。
また、春には花粉症も出るそうです(胃が丈夫でなく、西洋薬は合わないそうです)。
舌には大きな異常は認めませんでした。
腰冷痛、腰股攣急(症例36参照)によく効く五積散(ごしゃくさん;症例36、37、40、180、216、225、226、232、247参照)と、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう;症例49参照)に、体を温める附子(ブシ;症例2参照)を合わせて一ヶ月分処方いたしました。なお、麻黄附子細辛湯を使ったのは、「股関節痛には生薬の細辛がよい。」と、首藤孝夫先生(症例184参照)の講演会で聞いていたからです。また、麻黄附子細辛湯は、花粉症にも使えるので一石二鳥と考えたからです。
一ヶ月後の10月31日に来られた時には、「股関節を含め、腰も気にならなくなりました。」といわれました。その後薬を続けられ、平成24年2月27日に来られた時には、寒い日が続いておりましたが、「冷えもほとんど感じなくなりました。」といわれました。

細辛の効く痛みについて(首藤孝夫先生)

  • こめかみの痛み
  • 歯痛
  • 股関節から臀部にかけての痛み

252.慢性鼻炎の漢方治療

症例は44歳男性です。
一年中続く鼻炎(くしゃみ・鼻水)のため、平成23年12月16日漢方治療を求め姫路市から来院されました。
また、季節の変わり目には、かゆみを伴う湿疹がよく出るそうです。
身長174cm、体重68kg、BMI22.5。
他の症状として、腹がはる・頻尿・汗をかかない・肩こり・口が渇く・疲れやすい・のぼせやすい・手足の冷え・腰痛などがあります。
この方の舌を見ると、腫れぼったく、白苔と歯痕舌を認めました。冷え性の鼻炎に使う、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう;症例49、80、81、240、251参照)を一ヶ月分処方したところ、平成24年1月10日にかぜ(咳・咽頭痛)で来られたので、その時に腹診をしたところ、下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))をはっきりと認め、腎虚(症例58参照)もある(頻尿や腰痛はこのためと思われる)と考えられ、足のむくみも少し認めましたので、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん;症例47、222、223参照)も合わせて一ヶ月分処方したところ、平成24年2月3日に来られ、「鼻水は出なくなりました。しかし、まだ冷えはあります。」といわれましたので、体を温める附子(ブシ;症例2参照)も合わせてさらに一ヶ月分処方いたしました。
次に3月3日に来られ、「鼻水も全く出ず、他に調子の悪い所もなくなりました。」といわれました。

症例181にも書きましたが、特に冷え性の40歳以上の方は、腎虚の薬を続けると鼻炎は根治する可能性がありますので、今後も続けていきたいと考えております。皮膚の方も今のところ全く問題ない様です。

253.溶血性貧血の漢方治療

症例は76歳女性です。
様々な体調不良があり、その改善目的で平成22年5月31日当院へ来院されました。
平成20年度の健診で、貧血を指摘(赤血球数287万、ヘモグロビン9.3、ヘマトクリット26.6)されております。血小板数は15万と正常。検査の結果、総合病院内科で溶血性貧血と診断された様ですが、高齢なのと胃腸が悪いのとで治療はされていないようです。
薬はセブンイー・P(消化酵素複合剤)、ビオスリー(乳酸菌製剤で下痢や便秘に使う)、ガスター(胃潰瘍の薬)、レンドルミン(睡眠薬)のみが投与されていました。
身長146cm、体重46kg、BMI21.6。
症状としては、下痢しやすい・胃がもたれる・胸やけ・口の中が苦い・頻尿・鼻水・足や顔がむくむ・汗をかきやすい・のどが渇く・頭痛・肩こり・体がだるい・疲れやすい・食後眠くなる・眠りが浅いなどがあります。
この方の舌を見ると、腫れぼったく、白苔と歯痕舌を認めました。
腹診をしたところ、下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))をはっきりと認め、腎虚(症例58参照)もあると考えられました。
まず脾気虚(症例97参照)による胃腸の不調と貧血と不眠の治療を兼ねて、加味帰脾湯(かみきひとう)(症例45、193、239参照)と平胃散(へいいさん)を併用して、治療を始めました。
ずっと続け、胃腸がかなり調子良くなったので、11月29日から、腎虚を改善するため平胃散に変えて牛車腎気丸(ごしゃじんきがん;症例47、222、223、252参照)にしました。同処方を続けられ、平成23年6月14日の採血では、赤血球数263万、ヘモグロビン9.1、ヘマトクリット24.8)と貧血は全く改善していませんでしたが、体調はすごくよさそうなので、そのまま継続していただいたところ、平成24年2月7日の採血では、赤血球数302万、ヘモグロビン10.5、ヘマトクリット28.4とかなり貧血が改善し、それとともに栄養状態を示すアルブミンが4.0から4.4とかなり増えておりました(これは胃腸が丈夫になり食欲が増えたためと考えられました)。
また、溶血性貧血では黄疸(おうだん)がみられることが特徴(これは、壊れた赤血球内のヘモグロビンが体内で大量に処理された結果、間接ビリルビンという黄色の色素が体内で増えるため)ですが、本症例でも、直接ビリルビンが3.5、間接ビリルビンが0.58と上昇はそのまま見られました。
溶血性貧血自身が治ったわけではありませんが、全身の体調がよくなり、そこそこ日常生活に支障をきたさない程度に貧血も改善しており、漢方がお役に立てたようです。

溶血性貧血については、こちらをクリック画像の説明health.goo

貧血の漢方治療については、こちらをクリック画像の説明井上クリニック

254.続発性不妊の漢方治療(第3子がほしい)

症例は34歳女性です。
第1子が5歳、第2子が2歳で、第3子がほしいため、総合病院の婦人科・不妊外来へ平成23年5月よりへ通っておられますが妊娠しないため、漢方治療も受けたいと平成23年12月17日に来院されました。
身長158cm、体重55kg、BMI22.0。
実は、2人のお子さんは、当院で漢方治療を行っており、第1子は平成23年8月9日から、気管支喘息で神秘湯(しんぴとう;症例74、172参照)を投与し、それ以来一度も発作が出なくなりました。
第2子は平成23年12月19日から、中耳炎や副鼻腔炎を繰り返すため、アレルギー体質改善薬の柴胡清肝湯(さいこせいかんとう);症例55、109参照)を投与し、やはり一度も中耳炎や副鼻腔炎を起こさなくなりました。
そんなわけで、漢方薬を信頼していただいております。
実はその前に、たつの市の漢方薬局でいろいろな漢方薬をもらったそうですが、保険が効かず、お金が高いため続かなかったそうです。
その他の症状として、体や手足が冷え、鼻水・鼻詰まりがあり、生理の周期や量はばらばらで一定しないそうです。
この方の舌を見ると、腫れぼったく、歯痕舌を認めました。
「気虚」に六君子湯(りっくんしとう;症例97,154、178、179、182、202、248参照)を、生理不順に対して当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(症例14、158、241、249参照)を合わせて投与し、続けていただいたところ、平成24年3月3日に来られ、「現在妊娠5週とわかりました。」といわれました。
平成24年3月26日に来られた時には、「現在9週ですが、軽いつわりがあるだけで、調子はよいです。」といわれました。
体調もとてもよさそうなので、このまま薬を続けていただく予定です。

不妊症の成立経過による分類

原発性不妊:過去に妊娠や分娩の経験がないも場合をいいます。
続発性不妊:過去に妊娠や分娩を経験したことはあるが、その後2年以上妊娠しない場合をいいます。

255.帯状疱疹(ヘルペス)後神経痛(4)の漢方治療

症例5、122に続いて帯状疱疹(ヘルペス)後神経痛の症例を載せます。
症例は64歳女性です。
平成23年2月22日に、右胸部の帯状疱疹(ヘルペス)を発症。
夜間急病センターで、ヘルペスウイルスの増殖をおさえるバルトレックスという薬と、解熱鎮痛消炎剤のロキソニンを1週間分処方されました。
その後近くの医院で、リリカ(下のコメント参照)という、末梢性神経障害性疼痛に用いて、神経痛をやわらげる新薬を処方されましたが、全く無効であったそうです。
そこで、姫路市のペインクリニックを受診し、神経ブロックの注射を2回受けましたがこれも全く無効で、結局リスミー(睡眠薬)、ノイロトロピン(痛みの神経の感受性を低下させることで、鎮痛効果を発揮する。一般的な鎮痛薬が効きにくい帯状疱疹後神経痛など神経障害性疼痛にも有効とされる)、漢方薬の芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう;症例32参照)と体を温める附子(ブシ;症例2参照)も合わせてもらったそうですが、全く無効のため5月17日、漢方治療を求め宍粟市山崎町から来院されました。
身長157cm、体重56kg、BMI22.7。
痛みは焼けつくような痛みで、特に夜間痛みが増強し、睡眠が妨げられるそうです。
他の症状として、便秘・胃がもたれる・疲れやすいなどがあります。
この方の舌を診ると、紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。
気虚+血虚に使う当帰湯(とうきとう;症例5、71、122参照)と、「入浴すると痛みが和らぐ。」ことから体を温めるブシ末を合わせて開始しました。
一ヶ月後の6月10日に来られた時には、「昼間は痛みがましになってきましたが、夜はまだ痛みます。」といわれました。「瘀血」があり、不眠・のぼせもあることから加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196、201、204、210、213、214、224、229、230、243参照)をこれに合わせて一ヶ月分処方しました。
一ヶ月後の7月12日に来られた時には、「加味逍遥散はまずく、かえって痛みが増した。」といわれましたので、加味逍遥散は中止し、桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん;症例67参照)に変えて一ヶ月分処方いたしました。しかし、一ヶ月後の8月12日に来られた時には、「やはり、よけいに痛みが増す感じがする。」といわれましたので、桂枝茯苓丸加薏苡仁と当帰湯を中止し、桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう;症例104、206参照)とブシ末に変更してみました。
10月7日に来られた時には、「やっぱり、当帰湯がよかった。」といわれましたので、結局最初のとおりに処方しました。
12月20日に来られた時には、「痛みを忘れる時間が多くなってきた。」といわれました。平成24年3月3日に来られた時には、「ほとんど痛みはなくなりました。」といわれました。
時間はかかりましたが、なんとか痛みが抑えられてよかったです。

ペインクリニックの神経ブロックの注射も効かず、西洋医学期待の新薬リリカも無効となれば、西洋医学では全くお手上げですね。

帯状疱疹(ヘルペス)後神経痛については症例5、122、124も参照ください。

リリカについて(日経メディカル オンラインより)

2010年10月27日、疼痛治療薬のプレガバリン(商品名:リリカカプセル25mg、同カプセル75mg、同150mg)の適応変更が承認され、これまでの「帯状疱疹後神経痛」から「末梢性神経障害性疼痛」に適応が変更となった。用法・用量に関しては、従来と変わらず、「成人に初期用量1日150mgを2回に分割投与、その後1週間以上かけて1日用量300mgまで漸増する。なお、1日最高用量は600mgを超えないこととし、2回分割」となっている。

神経障害性疼痛は、国際疼痛学会では「体性感覚系に対する損傷や疾患の直接的結果として生じている疼痛」と定義されている。一般に、病態や発症機序で多彩なため、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)などの鎮痛薬の効果がほとんど期待できない

この神経障害性疼痛は、末梢性と中枢性に大別される。末梢性神経障害性疼痛の代表的な疾患は、帯状疱疹後神経痛、有痛性糖尿病性神経障害、三叉神経痛などであり、中枢性神経障害性疼痛は脳卒中後疼痛などである。従来、こうした神経障害性疼痛の治療には、コデインリン酸塩、三環系抗うつ薬、交感神経ブロックなどが用いられてきたが、副作用等の問題から十分な除痛に至らない症例も多かった。

2010年6月から臨床使用が可能になったプレガバリンは、構造的には、抗てんかん薬のガパペンチン(商品名:ガバペン)に類似している。プレガバリンは、主に神経系に分布するカルシウムイオンチャネルのα2δサブユニットに結合し、過剰に興奮した神経系において、各種神経伝達物質の放出を抑制することで鎮痛作用を発揮する。この作用機序は、これまでの疼痛治療薬にはなかった全く新しいものであるため、専門医からも注目され、当初は末梢性神経障害性疼痛の一つである「帯状疱疹後神経痛」のみを適応として、販売が開始された。

今回の承認により、プレガバリンの適応は、「帯状疱疹後神経痛」を含んだ、より広い疾患概念である「末梢性神経障害性疼痛」に拡大されたことになる。つまり、帯状疱疹後神経痛だけでなく、有痛性糖尿病性神経障害、三叉神経痛などにも、使用できるようになったのである。

既に世界的には、国際疼痛学会をはじめとする主要学会において、神経障害性疼痛の第一選択薬に推奨されており、海外では、2010年7月現在、既に世界110の国と地域で承認されている。なお欧米では、プレガバリンは、成人のてんかん患者における部分発作に補助的に用いられるほか、線維筋痛症や全般性不安障害の治療薬としても承認されている。日本でも現在、線維筋痛症に適応を追加するための開発が行われている。

今回、適応が広がったプレガバリンは、効果発現が早く、長期投与により持続的な効果が認められていることから、末梢性神経障害性疼痛により日常生活のQOLが低下している患者にとって有用性が高く、専門医からの期待を集めている。ただし、投与に際しては、国内の糖尿病性末梢神経障害における臨床試験で、副作用(臨床検査値異常を含む)が65.9%に認められていることに十分な注意が必要である。主な副作用は、傾眠(24.5%)、浮動性めまい(22.5%)、浮腫(17.2%)などであり、重大な副作用としては、心不全、肺水腫、意識消失、横紋筋融解症、腎不全、血管浮腫などが報告されている。

256.続発性無月経・便秘の漢方治療

症例は45歳女性です。
昨年夏に生理があり、その次は12月と、続発性無月経(生理が数ヶ月以上停止)の状態で、また便秘もあり酸化マグネシウム(腸管内で水分の吸収を高める結果、腸の蠕動運動を助け、排便を促す)という下剤を飲まれています。
平成24年1月28日漢方治療を求め姫路市から来院されました。
子宮筋腫の手術の既往もあります。
身長151cm、体重45kg、BMI19.7とやせを認めます。
この方の舌を診ると、全体が紫がかり、所々紫のしみのようなもの(瘀斑という)がみられ、舌の裏側の静脈が膨れ「瘀血」(おけつ)体質がかなりはっきりとしておりました。
その他の症状として、にきびができやすい・口内炎ができやすい・のぼせやすい・手足の冷え・痔など「瘀血」によると思われる症状があります。
加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196、201、204、210、213、214、224、229、230、243参照)と、桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん;症例67参照)を合わせて(加味逍遥散だけでは、「瘀血」をとる力が弱いため)一ヶ月分処方したところ、平成24年3月3日に来られ、「今回は、普通に生理が来ました。また酸化マグネシウムを飲まなくても便がでるようになりました。」と喜んでいただきました。

「瘀血」については、症例2と35を参照してください。

生理不順については、症例157、158、159も参照してください。

瘀血を予防する

瘀血の原因としていわれているのは、

  • 老化によって血管の弾力が失われたり、血液成分が変化する。
  • 運動不足によって、血液循環が悪くなる。
  • 不規則な生活習慣が消化器系臓器に負担をかけ、血液循環を悪くする。
  • 脂質などが多い偏った食事によって血液粘度が高くなる。
  • 強い精神的ストレスが血液の貯蔵と調節を主る、五蔵の「肝」の働きを低下させ、血液循環を悪くする。
  • 女性の場合、冷えや出産などが原因となることもある。

瘀血の予防は毎日の生活が基本です。

  • 適度な運動(散歩、ストレッチ運動、養生功など)を行う。
  • ストレスがたまらないよう心がける。
  • 規則正しく生活し、十分な睡眠をとる。
  • 冷暖房による温度差に注意する。
  • 食事に気をつける(少塩分、少砂糖、少飲酒、少食の上に、イワシやサバ、アジなどの青魚、シシトウ、サヤインゲン、ホウレン草、トマト、シソなどの野菜を多めに摂取する。玉ネギ類のものや黒いもの、お酢も血をサラサラにする働きをもっているために、積極的とる。)

257.アレルギー性鼻炎(花粉症)の漢方治療

インフレエンザが下火になったと思ったら、今年も3月7日ころから、花粉症の皆さんは症状が出始めたようで、急に来院される方が増えてまいりました。
症例は55歳女性です。
約8年前より春先に花粉症が出るようになり、毎年5月初め頃まで続くそうです。
日中は鼻水主体で、夜ふとんに入ると鼻閉がおこり、目も少し痒くなるそうです。近くの医院でこれまでジルテックという抗アレルギー薬をもらわれていたそうですが、副作用で下痢になったり、便秘になったりしたそうです。
今回平成23年4月5日、漢方治療を求めて当院へ来院されました。
身長151cm、体重50kg、BMI21.9。
この方の舌を診ると、全体にぼてっとして大きく厚みがありました(胖大(はんだい;水分代謝が悪く、体に余分な水分がよどんでいる証拠(=「水毒」)です)。
その他の症状として、便秘傾向・胃がもたれる・口内炎ができやすい・薬で胃が荒れやすいなど胃腸の不調もあります。
目の症状はそれほどでもなさそうなので、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)+麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)の合方(症例171参照)を一か月分処方しました。
それで、平成23年は来院されませんでしたが、平成24年3月13日、再び来院され、「昨年の漢方は本当によく効いたので、また下さい。」といわれましたので、また同じ薬を処方させていただきました。

なお、アレルギー性鼻炎については、症例4、27、49、59、80、109、134,135、171、181,187に様々な年齢・症状の症例を載せていますので参照してください。

258.更年期障害(体調不良)の漢方治療

症例は56歳女性です。
若い時から胃腸が弱く、夏場は特に調子悪く下痢や食欲不振が続くそうです。
2年前より、特に体調が悪くなり、婦人科を受診したところ更年期障害といわれたそうです。
内科では胃カメラの結果、胃炎と軽い逆流性食道炎といわれ、ガスコン(胃や腸内のガスをとるお薬)、ビオフェルミンセレキノン(胃腸の調子を整えるお薬)、ドグマチール(胃の働きをよくするお薬。また、うつ状態を改善したり、気分を安定させる作用もある)を処方されましたが、一向に症状は改善せず、近くの漢方薬局で六君子湯(りっくんしとう;症例97,154、178、179、182、202、248、280、291参照)と補中益気湯(ほちゅうえっきとう;症例15、205参照)をもらっても一時的には良くなった気がされたそうですが、すぐに調子悪くなり、吐き気が増したそうです。
症状は問診票から、下痢しやすい(一日2,3回軟便か水様便)・快便感がない・腹がはる・腹が鳴る(食事をするとすぐに腸がぐるぐると音をだす)・ガスが多い・吐き気・胃がもたれる・げっぷ・胸やけ・のどが痞える・口の中が苦い・食欲不振・体重減少・体がむくむ・汗をかきやすい・寝汗をかく・・肩こり・背中が凝る・鼻づまり・鼻水・体がだるい・疲れやすい・食後眠くなる・イライラする・のぼせやすい・顔や足がほてる・耳鳴り・めまい・手足が冷える・右手がしびれる・気分が沈む・胃腸の不快感で夜中や明け方に頻繁に目が覚めるなどがあり、本当に気の毒になるような体調の悪さです。
そんな時当院のホームページを見られ、平成23年8月13日、漢方治療を求めて島根県雲南市から当院へ来院されました。
この方の舌を見ると、腫れぼったく歯痕舌を認め、色は紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「気虚」と「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。
腹部触診により、胸脇苦満(きょうきょうくまん)を認めました(胸脇苦満とは、胸から脇(季肋下)にかけて充満した状態があり、押さえると抵抗と圧痛を訴える状態で、柴胡(さいこ)という生薬を含む柴胡剤を用いる重要な目標です)。また左天枢(てんすう)に圧痛(症例155参照)も認めました
加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196、201、204、210、213、214、224、229、230、243、255参照)と、「気虚」の症状に対して六君子湯を一ヶ月分合わせて投与しました。
一ヶ月後の、9月7日には、「涼しくなってきたせいもあり、食事も食べられるようになりました。おなかの気持ち悪さもとれてきました。便も以前よりかたくなり下痢も改善しています。」とのことでしたので、同じ薬を続けて頂きました。
10月11日には、「薬を飲むようになって、体調は安定しています。気持ちも落ち着き、家事・仕事にも普通に向き合えるようになりました(大腸のカメラも受けられたそうですが異常なかったそうです)。」とのことでしたので、さらに同じ薬を続けて頂きました。
12月14日には、「漢方を飲むようになってから、毎年感じる冬の冷えもあまり気にならなくなりました。調子を崩した時は近所の内科でもらった薬を併用しながら過ごしていますが、ほとんど頼らずに過ごせています。」とのことでしたので、さらに同じ薬を2か月分処方させて頂きました。
平成24年3月16日には、「毎年春先には花粉のアレルギーがひどく困ったいましたが、今年は症状が軽く漢方薬を飲んでいることが影響しているのかな?と喜んでいます。体調がよければ、1日2回飲んでいる薬を1回にしてもいいですか?」とのことでしたので、1日1回で続けて頂く事にしました。
ここまで来るともうだいじょうぶだと思います。遠くから来て頂きましたが、漢方薬がお役に立ててほんとうによかったです。

症例155のコメントにも書いていますが、「肝」は正常であれば、「気」「血」の流れを円滑にする機能をしているわけですから、本来は「脾(胃腸)」と調和して「脾」が行っている飲食物を「気」や「血」に変えて、上方にある臓器(心・肺)に送る作用を補助しなければなりません。
しかし、ストレスなどの原因で肝が障害されれば、「脾」との調和が崩れてしまうのです。

症状としては「肝」の「気」が停滞してることによりガスが溜まりやすくなったり、お腹が張った感じや両脇がすっきりしないなどといた不快感が起きたり、イライラや怒りっぽくなったりもします。また気が停滞して熱化したことによる便秘も現れます。緊張やストレス・イライラで症状は増悪するのが特徴です。
本症例では、漢方薬局に行って、六君子湯や補中益気湯で「脾(胃腸)」の治療を受けていますが、肝心の「肝」の治療をされていないために症状が改善しなかったと考えられます。

259.ガスでおなかが張る・便秘の漢方治療

次の症例は71歳、女性です。
平成18年より、高血圧症で当院通院中の患者さんです。
平成24年3月初め頃より、右耳が、”血液でも流れるようにざわざわする”ため、総合病院の耳鼻科を受診し、一般の診察や頭部CT検査などを受けられましたが、「特に異常なし。」といわれています。
その頃から、”ストレスで胃のまわりがおかしい感じ(患者さんの言葉)”があったそうですが、3月12日の昼食にカレーライスを食べてから、嘔吐・冷汗が出現し、意識が遠のく感じがしたため、救急車で総合病院へ搬送されました。
点滴を受けて、ビオスリー(乳酸菌の仲間。腸にやさしい善玉の乳酸菌を補い、悪玉の腸内細菌を追い出す。おもに下痢症に用いますが、便秘にもよい)をもらいましたが、その日から4日間便秘になり、食欲がなく、腹部の苦悶感が強く、おなかが固く張るため、3月16日当院へ来られました。
身長152cm、体重53kg、BMI23.1。
舌には、べっとり黄色味を帯びた白苔が付着していました。
おなかは、固くガスで張り、腸音が減弱していました。
そこで、平胃散(へいいさん;症例100参照))調胃承気湯(ちょういじょうきとう;症例100参照)を2週間分処方いたしました。
3月21日、別の用事で来られたときに、「便も毎日出るようになり、調子いいです。」といわれました。
次に3月28日に来院され、「食事も全く普通にとれますし、便も毎日出てとても調子いいです。」といわれました。「薬はどうされますか?」と尋ねたところ、「できればこのまま続けたい。」とのことでしたので、さらに一カ月分処方させていただきました。
舌を見ると、苔がすっかりとれており、おなかも軟らかくなっていました。
念のため4月2日に採血を行いましたが、全く異常ありませんでした。

調胃承気湯について(下田 憲先生コメント)

気には先天の気と後天の気があります。
先天の気に属するのは、代表は腎の気、それと腎の気に導かれて働く心の気です。
後天の気に属するのは、一番中心は脾の気で、それと導かれるだけではないですが、肺の気です。
先天の気は、そんなに激しい症状は一般的には出さないですね、じんわりした、気と言いながら空気なんかはあまり動かさないで、どちらかというと気力にかかわってくることの方が多い。なぜかと言うと、腎の気は生命力そのものだからそんなに動揺しては困るんですね。毒物を飲むなどよっぽどの事がないかぎり、腎の気が一気にやられることはない。普通は、じわーと立ち上がり、じわーと消えていくんです、一生かかってね。それに伴って心の気も立ち上ってだんだん衰えていく。だから、そんなに激しい症状は出さない。

ところが、脾の気は毎日の食べ物でも影響される。肺の気は毎日の天候でも、温度差、湿度、室内にたちこめる炭酸ガスの量にでも左右される。
もう1つ肝の気、これはストレスがらみ、人間関係などによって動かされています。
この中で、身体症状を一番急激に出すものは何かというと、肝は腎よりは早いけれどじっくりやって、ストレスがずっと加わるといろんな症状を出していきます。
脾はその場その場で変動します。脾気や肺気が変動すると現実に空気の異常をきたします
承気湯というのは本来それを意識した方剤です。
脾・肺の気の巡りが悪くなると、いきなり脾や肺の臓がやられるわけにはいかないので、腑(胃と大腸)に下請けさせる。腑に下請けさせ、胃と大腸がやられると、必然的にその中間の小腸も含めて(これは脾や肺の腑ではないですが‥)、ガスの巡りが悪くなる

外因病で入ってきたときは、まず胃と大腸が熱で焼かれる。脾や肺が受けたくないから腑の胃や大腸で最初受ける。熱性疾患の初期で、胃が全然動かなくなったり、急に便秘になったりする状態がそうです。
内因病の時は、脾や肺の気が枯渇してくる、陰(水・血)が衰えると必ず陽(気)が熱を帯びてくる。陰がうんと衰えると冷えの症状が出てくるが、陰が最初ちょっと衰えて陰の症状をそのまま出さなければ、腑の方が熱をもってくる。
要するに、外因病でも腑に熱がもたらされるし、内因病で脾や肺が衰えていっても、胃・大腸に熱症状がでます。この状態の一番初期の状態が、調胃承気湯や小承気湯の状態なんですね。だから、単なる便秘の薬ではない。大黄甘草湯は便秘のくすりですが、承気湯はあくまで気を巡らす薬です
要するに、胃・小腸・大腸に熱をもつとこの辺の血の巡りが悪くなるだけでなく具体的にガスがたまってきます。このガスは術者の気が高まってくると手を置くだけでわかります。上腹部に手を置くだけで、かすかにガスだけが動くのがわかります。茯苓飲のときは水と空気が一緒に動く、振水音(水泡音)というのがわかります。そして、当然熱症状があります。熱症状があって、気の巡りの悪い状態があって、原因として、何らかの感染症があるか、内因として脾か肺の衰えがあるか、どちらかをとらえれば良い。

調胃承気湯と大承気湯、小承気湯でどの程度の差があるかというと、小承気湯は一番症状が軽く、大承気湯は一番強い。調胃承気湯はちょうど中間という感じです。
ただし、意外と承気湯は使う機会あんまり多くない。日本漢方では意外と承気湯は使わない。なぜかというと、途中食い違いがでてきたみたいでね、承気湯を本来使うようなときに柴胡剤をよく使っている。それでうまくいっているかというと、内因病のときはなんとかうまくいっているが、外因病のときは結構失敗しているみたいですね。承気湯を使うべきときに承気湯で下すのがおっかないみたい。それで柴胡剤で誤魔化してしまう。そうすると、結局、病がこじれて長引いてしまう。

承気湯は、例えば外因病の場合、お腹の中で熱をもつような悪いものがあるわけだから、それを下してしまおうとするのが承気湯のポリシーなんです。
あるいは、内因病の結果、お腹に熱をもっているから、当然お腹の中にあるもの出して熱を下げてしまおうとする、どっちも同じなんです。要するに、お通じをつけるのではなく、気を巡らし、下してしまうことで熱を生み出している元を取り除こうとするのが承気湯なんです。

260.稀発月経 の漢方治療

次の症例は31歳、女性です。
月経周期が39日(月経周期が39日以上を稀発月経と呼ぶ)であるのと生理痛がひどいため、当院通院中の方の紹介で、平成24年2月6日、漢方治療を求めて太子町から当院へ来院されました。
身長162cm、体重64kg、BMI24.4。
婦人科で不妊症の治療にも通われておりますが、特に悪い所はないといわれています。
セキソビット(脳下垂体に働きかけ、FSH(卵胞刺激ホルモン)やLH(黄体形成ホルモン)の分泌を促すことで、排卵を起こさせる効果がある)を処方されています。
他の症状として、便秘や下痢の繰り返し・肩こり・湿疹が出来やすい・手足が荒れる・爪の異常・髪が抜けやすい・肩こり・手足の冷え・寝つきが悪いなどがあります。
この方の舌を見ると、腫れぼったく、歯痕舌を認めました。手足が荒れる・爪の異常・髪が抜けやすいなどの血虚の症状と冷えて排便の異常があるため、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん;症例112、113、158参照)人参湯(にんじんとう;症例8参照)を合わせて処方したところ、3月3日に来られ、「今回は生理が30日目で来て、生理痛もありませんでした。」といわれましたので、さらに一カ月分処方したところ、今度は3月3日に来られ、「今度は29日目に生理が来て、体調もとてもいいです。」といわれました。
あとは無事妊娠されるのを待つだけですね。

月経(生理)不順については、症例157・158・159も参照してください。

月経(生理)不順については、こちらをクリック画像の説明kampo view



261.水毒の漢方治療

次の症例は37歳、男性です。
平成24年3月29日、頭痛(天気が悪くなるとひどくなる頭痛;症例196参照)と、吐き気・めまい・花粉症・風邪をひきやすく治りにくいなどを訴え来院されました。
身長169cm、体重53kg、BMI18.6とやせを認めます。
この方の舌を見ると、厚くはれぼったい感じがし、また、両側の舌の縁に、歯型が波打つようについていました(歯痕舌(しこんぜつ))。腹診では、腹直筋緊張を認めました。
水毒と気虚(脾虚)体質と考え、五苓散(ごれいさん;症例3、22、120、174、196、215参照)呉茱萸湯(ごしゅゆとう;症例51、169、199、213、288、293、304、388、400、450、505参照)を合わせて二週間分を処方しました。
4月14日に来られた時には、「頭痛は全くなくなり、胃も調子いいですし、花粉症まで全く出なくなりました。」とにこにこしていわれました。
「このまま薬を続けたい。」とのことでしたので、さらに一カ月分処方させていただきました。
今まで、天気が悪くなると体調がすぐれず、特に梅雨時は最悪だったそうです。
水毒は漢方でしか治療できませんので、お役に立ててよかったです。

水毒の症状

からだを構成する成分で最も多くを占める水分の量や循環状態の乱れによって起こるからだの変調を「水毒(すいどく)」といいます。西洋医学にはない漢方特有の考え方です。

動悸、めまい、立ちくらみ、車酔い、耳鳴り、頭痛、吐き気、嘔吐、水様性の鼻水や喀痰(気管支喘息・アレルギー性鼻炎)、唾液分泌異常、 咽喉の渇き、尿量の異常(多い、少ない)、下痢、便秘、身体や四肢のむくみ・四肢関節の腫れと痛み・胸水、腹水、心のう水、身体の重だるさ、 高血圧、低血圧、喘息発作、生理の異常、冷えなど多くの症状が水毒が原因のことがあります。

西洋医学的には「浮腫」「脱水」ということで、利尿剤や強心剤を用いるか、輸液(点滴)を行うことしか出来ません。
不定の症状の場合には精神安定剤などが処方されることになります。
ところが漢方では、五苓散など「水毒」を即座に、それも、数秒から数分の間に改善してくれる漢方薬があるのです。

262.鵞足(がそく)部の膝の痛みの漢方治療

次の症例は55歳、女性です。
約5年前より、左膝の痛みが出現しました。しかし、潰瘍性大腸炎の既往があり、解熱鎮痛薬は副作用で飲めなかったそうです。
痛みは、膝の下あたりで、昼夜を問わず痛むそうです。水も何回かたまり、その度に水を抜く処置を受けています。
平成24年2月16日、漢方治療を求めて、姫路市より当院へ来院されました。
身長164cm、体重83kg、BMI30.9と肥満を認めます。
この方の舌を見ると、腫れぼったく歯痕舌を認め、色は紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「気虚」と「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。
他の症状として、下痢しやすい・汗をかきやすい・頭痛・肩こり・手足が荒れやすい・身体がだるい・疲れやすい・食後眠くなる・耳鳴り・手足の冷え・腰痛などがあります。また、他院内科で高血圧症で通院中で、アムロジピンとブロプレスという降圧剤を服用されています。
そこで、「瘀血」体質の神経痛に使う、疎経活血湯(そけいかっけつとう;症例1参照)と水毒体質の膝の痛みによく使う防已黄耆湯(ぼういおうぎとう;症例76参照)に、体を温める附子(ブシ)を合わせて一ヶ月分投与しました。
しかし、残念ながら3月14日に来られた時には、痛みは全く良くなっていませんでした。
そこで、もう一度膝を診せていただき、痛い場所を尋ねると、左膝の内側部で、まさに鵞足部(症例227、228参照)でしたので、防已黄耆湯と附子はそのままで、鵞足炎に使う治打撲一方(ぢだぼくいっぽう)を合わせて1日2回で一ヶ月分処方させていただいたところ、4月12日に来られ、「膝は薬を飲み始めて2、3日したら痛まなくなりました。その後、一回痛みかけましたが、それも1日でよくなりました。」といわれました。

鵞足炎は、陸上競技やサッカーの選手に多く、ランニング動作で脚を後ろに蹴り出す時やサッカーのキックで蹴り出した脚を減速させる時などに、過度の負荷がかかったり、鵞足と内側側副靱帯とがこすれあったりして起こるとされています。ウォーミングアップ不足や、急に長い距離を走ったり使いすぎたりということが原因としてあげられますが、X脚(膝をまっすぐにそろえて立つと足首の内側にすき間ができる)や回内足(着地時に足が外がえしになる)などの骨格異常が関与する場合もあるとされています。
今回の症例は、5年前からの痛みで、鵞足炎(がそくえん)とは言えないかもしれませんが、鵞足部の痛みであれば、治打撲一方がよく効くことがわかった症例でした。

なお、本剤はあまり虚実にこだわらなくてよく(”大黄”という下剤に使う生薬が配剤されているが、虚証の女性に使っても、下痢を起こすのは不思議にまれ;平田道彦先生)非常に便利な方剤ですが、本症例でも胃腸の丈夫でないにもかかわらず、問題なく使用できました。

症例268にも同じような症例を載せています。

263.主婦湿疹(進行性指掌角化症)の漢方治療

症例は39歳女性です。
約5年前より、手荒れがあり、皮膚を受診したところ、進行性指掌角化症と診断されましたが、「治らない。」といわれたそうです。
一応、デルモベートというステロイドの軟膏が処方されましたが全くよくならなかったそうです。
平成24年3月21日、漢方治療を求めてたつの市から当院へ来院されました。
身長154cm、体重53kg、BMI22.3。
この方の舌をみると、色は紫がかり、舌先が紅くなっていました(舌尖紅潮;症例72、141参照)。また、舌の裏側の静脈が枝分かれして、「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。
他の症状として、薬で胃が荒れやすい・口内炎ができやすい・口の中が苦い・口が渇く・汗をかかない・頭痛・肩こり・体がだるい・疲れやすい・イライラする・耳鳴り・めまい・手足が冷える・腰痛・生理痛が強いなど多彩な症状がありました。
『病名漢方治療の実際(坂東正造著;メディカルユーコン社)』には、本症には、加味逍遥散(かみしょうようさん);症例72参照)を基本とし、乾燥・亀裂など「血虚」(けつきょ)の病変には四物湯(しもつとう;症例54参照)を合方するようにとありますので、本性例にぴったりでありますので、その通り一か月分処方させていただきました。紫雲膏(しうんこう;症例54参照)も合わせてお出ししました。
4月12日に来られた時には、「指の先端部分の皮膚が乾燥し、ひび割れを起こし粉をふいたようになっていたのが、薬を飲み始めてから、2、3日目からよくなりだし、今はとてもきれいになりました。」といわれましたので、同じ処方でまた一ヶ月分処方させていただきました。

この方はその後も薬を続けられ、8月22日に来られた時に、「手はすっかりきれいになりました。数年ぶりに指に指紋が出てきました。素手で子供の顔を触れるのは本当に幸せです。」といわれました。
漢方がお役に立てて本当によかったです。

主婦湿疹については、症例315、352、550も参照下さい。

主婦湿疹(進行性指掌角化症)について

主婦湿疹とは、水仕事など外的な刺激により、指を中心として起こる湿疹のこといい、若い女性に多くみられます。素質としては、子供の時に「しもやけ」が出来やすかった人に多い傾向があります。
指先を多く使用することで悪化します。

症状としては、指の先端部分の皮膚の指紋溝が消えてツルツルしてきます。
そして、手の指先の皮膚に乾燥、かゆみ、ひび割れを起こします。その皮膚の裂け目からは、出血を起こすこともあります。
すべての指にひろがると、指先から手のひらの方へもひろがりを示します。そして、手のひらの皮膚が硬くなり、指が曲がってしまうこともあります。
さらにひどくなると、爪が変形したり、手の甲にかけて湿疹がひろがることもあります。
一般に、アトピー素因を持つ人に多くみられ、冬にひどくなりますが、夏にはよくなることが多いようです。

西洋医学的治療は、皮膚炎部分には炎症を抑えるステロイド外用薬を塗り、 ひび割れ部分にはステロイド含有テープを貼ってひび割れがそれ以上大きくならないようにしながら炎症を抑えます。
かゆみが強いときはかゆみ止めの内服を併用することもあります。
炎症が治まれば、ひび割れやカサカサ、かゆみやなどの症状は軽くなりますが、 皮膚表面の浅いキズやめくれた皮膚、ささくれなどは残っていますので、皮脂と水分を補う保湿クリームを塗ってスキンケアを行います。また、普段から炊事用手袋を使用したり、皮膚への刺激が少ない洗剤や石鹸を使用したり、などの対策も重要です。
冬の間は毎日保湿クリームを使用します。

264.胃腸虚弱、イライラの漢方治療

次の症例は80歳、男性です。
生まれつき胃腸が弱く、胃がもたれ、ガスがたまり、そのため下腹がよく張り、下腹に力が入らず、便秘(3日に1回程度)があり、そのくせ緊張すると下痢になるそうです。また、他人からものの言い方がきついとよくいわれ、すぐイライラするそうです。
また仕事をしていない時は、気分が落ち込むそうです。
そのほかの症状として、汗をかかない・耳鳴り・手足がよく冷える・腰痛・夜中によく目が覚めるなどがあります。
既往歴として、平成7年に胃癌のため胃を3分の2切除されています。
平成24年2月28日、漢方治療を求めてたつの市から当院へ来院されました。
身長161cm、体重45kg、BMI17.4とやせを認めます(脾虚;症例97参照)。
この方の舌をみると、白苔を認め、色は紫がかり、舌の裏側の静脈が枝分かれしていました。
腹診では、下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))をはっきりと認め、腎虚を認めました。
茯苓飲(ぶくりょういん;症例50参照)と、抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ;症例19,126、抑肝散の症例24、25参照)コウジン末(強壮・強精作用のある薬用ニンジンの粉薬。神経を活発にして、胃腸など体の機能を高める;症例449参照)を合わせて一ヶ月分処方させていただいたところ、3月20日に来られ、「下腹が張っていたのがよくなってきた。薬が合っている感じがする」といわれましたので、さらに一ヶ月続けたところ、4月20日に来られ、「イライラしなくなり、夜がよく寝れるようになり、便通もよくなりました。自分でも明るくなった気がして、前向きに物事を考えられるようになりました。」といわれました。
このまましばらく続けていく予定です。

なお、腎虚の薬は今の状態では胃腸に障ると考え使用しませんでした。

茯苓飲について(下田 憲先生コメント)

茯苓飲は、茯苓、朮、人参、陳皮、枳実、生姜から構成されています。
幽門痙攣を除き、蠕動を調節して通過障害や逆流を防ぐ処方です。
中心となる生薬は陳皮・枳実・生姜の組み合わせです。
陳皮・枳実が幽門痙攣を解除して通過をよくし、蠕動を強め、逆蠕動や逆流を防ぎ、胃の内容物を速やかに腸に送ります。
陳皮・生姜は食欲を高め、健胃作用があります。朮・茯苓は胃内停水を除き、人参は心下の痞えを治す作用があります。
上腹部がガスで膨満して食事が入らず、ときに水様の吐物がみられる場合などに用います。

265.乳房痛の漢方治療

次の症例は34歳、女性です。
平成24年3月20日の夜から、左の胸痛が出現したため、翌日当院を受診されました。
痛みは寝ているほうが強くなるそうです。
念のため心電図と胸部のX線写真を撮りましたが異常なく、患者さんの希望もあり、総合病院の乳腺外科を4月5日受診していただいたところ、左乳房A領域の痛み(右乳房にも痛みあり)と、両側乳腺の腫大を認めましたが、マンモグラフィーや乳腺エコーでは腫瘤などの異常は認めず、びまん性の乳腺の腫大を認めるのみでした。
結局、最終月経時(3月8日~13日)に、月経困難症と思われる、立っていられないような下腹部痛が持続したことから考え、排卵周期のホルモンバランスの変調による乳房痛と診断されました(痛みが続くようなら婦人科を受診するように言われたそうです)。
手持ちのロキソニン(解熱鎮痛薬)では、痛みがおさまらないため、4月9日に、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん;症例14、158、241、249、254参照)葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう;;症例12参照)の漢方薬を一ヶ月分処方しました。葛根湯は乳腺炎によく使用されるため使用しました。
この方の舌を見ると、腫れぼったく、色は紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「水毒」と「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。
5月7日に来られた時には、「漢方を飲み始めてから、2週間ぐらいしてから痛みが軽くなり、その後生理の時に、少し痛みを感じたのみになったそうです。また生理痛は今回は全くなかったそうです。」
念のため、もう一度同じ処方を出しましたが、次回からは当帰芍薬散だけでよさそうです。

266.肥満の漢方治療

次の症例は44歳、女性です。
最近1年間で、体重が4kg増加し、また、体がむくみ、足とお腹が冷えるため平成24年2月29日、漢方治療を求めてたつの市から当院へ来院されました。
身長154cm、体重61kg、BMI25.7。肥満度16.8%。
この方の舌を見ると、腫れぼったく歯痕舌を認め、「気虚」体質と考えられました。
水毒体質の膝の痛みや肥満によく使う防已黄耆湯(ぼういおうぎとう;症例76参照)に、体を温める附子(ブシ;症例2参照)を合わせて一ヶ月分処方いたしました。
一ヶ月後の3月28日に来られた時には、「体重は変わりませんが、尿量が増加して、とても体の調子がいいです。」といわれましたが、以前から便秘(1週間に1度くらいしか出ない)があるようなので、ダイオウ末を少量(1日に0.5g)加えてみたところ、5月1日に来られ、「便秘もよくなり、体重が4kg減りました。」といわれました。
水毒と、便秘が解消したことがよかったのでしょう。

なお、肥満症については、症例18、221もご参照ください。
また、症例104の真武湯や防已黄耆湯を使う便秘もご覧ください。

267.原因不明の発熱(気虚発熱(3))の漢方治療

症例15、166に続いて気虚発熱(症例15参照)の症例を載せます。
症例は23歳、女性です。
平成24年3月24日の夜から、38℃を超える発熱(最高38.4℃)が出現し、たつの市から3月26日外来受診されました。
一般の診察をしても特に異常は認められず、他の症状を聞くと、便秘傾向・胃がもたれる・口内炎ができている・足がむくむ・汗をかきやすい・頭痛・肩こり・息が吸いにくい・体がだるい・疲れやすい・めまい・手足の冷え・眠りが浅い・生理痛が強いなどがありました。
この方の舌を見ると、腫れぼったく歯痕舌を認め、「気虚」体質と考えられました。また舌先が紅くなっていました(舌尖紅潮;症例72、141参照)。
念のため血液検査をしましたが、CRP±(0.56)、白血球3200、そのほか大きな異常は認めなかったので、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を2週間分処方したところ、最初の2日間だけ熱が出ましたが、それ以来一度も熱は出なくなりました。
よく話を聞くと、最近仕事がとくに忙しいそうで、それによる疲労が原因と考えられました。

あと生理前の頭痛やその他の症状に対して、加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196、201、204、210、213、214、224、229、230、243、255、258参照)を5月1日より追加したところ、5月24日には、「頭痛がなくなり、手足の冷えもましになりました。」といわれました。
そのまま薬を続け、6月25日には、「どんどん元気になっています。熱も36℃くらいです。ただ生理前に肩こり等少し体調が悪くなります。」といわれましたので、その時だけ加味逍遥散を1日3回飲むようにしていただきました。

気虚発熱については症例285、321も参照ください。

268.鵞足(がそく)部の膝の痛みの漢方治療(2)

症例262に続いて鵞足(がそく)部の膝の痛みの症例を載せます。
症例は65歳、女性です。
2年前に仕事を退職し、その頃より左膝が痛むようになり、整形外科でヒアルロン酸の注射を2週間に1回打ち、それで痛みはましになったそうですが、今度は右膝が痛み、その痛みは今に至るまで続いています。また腰も最近痛むようになり、第四と第五腰椎の間が狭くなっているからだといわれています。
知人の紹介で、平成24年4月18日、漢方治療を求めて加西市から当院へ来院されました。
身長155cm、体重64kg、BMI26.6とやや肥満を認めます。
この方の舌を見ると、腫れぼったく歯痕舌を認め、色は紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「気虚」と「瘀血」(おけつ)体質がはっきりとしておりました。
そのほかの症状として、足がむくむ・疲れやすい・手足が荒れやすいなどもあります。
膝の痛む部位は内側部で、まさに鵞足部(症例227、228参照)でしたので、治打撲一方(ぢだぼくいっぽう)と膝の痛みによく使う防已黄耆湯(ぼういおうぎとう;症例76参照)に、風呂で温めると痛みは楽になるということなので、体を温める附子(ブシ;症例2参照)を合わせて一ヶ月分投与したところ、5月14日に来られ、「膝はすごくよくなり痛まなくなりました。本当にうそのように痛みが引きました。」と喜んでいただきました。

鵞足部の膝の痛みに治打撲一方が効くというのは、間違いなさそうです。

変形性膝関節症の漢方治療については症例2,76,111,131,184,207,209,227,228,245,269,282,283,300,311,319,334,355も参照して下さい。

269.変形性膝関節症の漢方治療

症例は63歳女性で、症例268の友人です。
3年前から右膝に水がたまった感じがして痛み(お皿の部分が痛む)があり、整形外科(症例268同じ医院)でヒアルロン酸の注射を2週間に1回打っていますが、痛みは改善せず、症例268と一緒に平成24年4月18日、漢方治療を求めて多可郡多可町から当院へ来院されました。
身長162cm、体重73kg、BMI27.8と肥満を認めます。
そのほかの症状として、胃がもたれる・胸やけ・のどがつかえる・口の中が苦い・足がむくむ・口が渇く・頭痛・肩こり・風邪が治りにくい・食後眠くなる・気分が沈む・寝つきが悪い・夜中に目が覚める・眠りが浅いなどがあります。
舌は、色が紫がかり、白い苔が厚く付き、舌の裏側の静脈が膨れ、「水毒」+「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。
また、膝に細絡(皮膚上に表れる糸ミミズ状で赤紫色の毛細血管腫;症例91参照)を認めました。
瘀血体質の神経痛に使う、疎経活血湯(そけいかっけつとう;症例1参照)と水毒体質の膝の痛みによく使う防已黄耆湯(ぼういおうぎとう;症例76参照)に、風呂で温めると痛みが和らぐとのことでしたので、冷えがあると判断して体を温める附子(ブシ;症例2参照)を合わせて開始したところ5月14日に来院され、「痛みがよくなりました。膝の水のたまった感じも引きました。」と言われましたのでしばらくこの組みわせで続けていく予定です。

症例268とともに遠くから来院していただきましたので、すぐよくなられてよかったです。

変形性膝関節症の漢方治療については症例2,76,111,131,184,207,209,227,228,245,268,282,283,300,311,319,334,355も参照して下さい。

何度も書きますが、膝の痛みは漢方で簡単に治すことが出来ます。

270.生理が来ない・便秘の漢方治療

症例は45歳女性です。
昨年夏に生理があり、その次に12月初めにあり、その後生理が来ないため、平成24年1月28日、漢方治療を求めて姫路市から当院へ来院されました。
便秘があり、普段から酸化マグネシウム(腸内に水分を引き寄せ、便を軟化増大させます。その刺激で腸の運動が活発になり便通がつきます)を飲まれています。
身長151cm、体重45kg、BMI19.7とやせを認めます。
既往歴として、10年前に子宮筋腫の手術をされています。また、一時不眠症等で、心療内科へ通院されたことがあります。
そのほかの症状として、口内炎ができやすい・にきび・のぼせやすい・手足の冷え・痔などがあります。
舌は、色が紫がかり、瘀斑(おはん;舌診についてを参照)を認め、舌の裏側の静脈が膨れ、強い「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。
冷えのぼせ改善のために加味逍遥散(かみしょうようさん);症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196、201、204、210、213、214、224、229、230、243、255、256、258、263参照)と、「瘀血」(おけつ)体質が強いので桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん;症例67参照)を合わせて一ヶ月分投与したところ、3月3日に来られ、「生理が来ました。また、下剤なしでも便も出るようになりました。」といわれました。
その後、5月12日に来られ、「薬をやめるとまた、生理が来ませんでした。」といわれましたので、いきなり薬をやめず、しばらく続けるようにお話させていただきました。

271.冷えのぼせの漢方治療

症例は51歳女性です。
足の先は冷たいのに、手はほてり、顔はのぼせるため平成24年2月7日、漢方治療を求めて当院へ来院されました。
身長164cm、体重70kg、BMI26.0と肥満を認めます。
そのほかの症状として、汗をかきやすい・足がむくむ・肩こりなどがあります。
舌は、色が紫がかり、亀裂(裂紋舌舌診についてを参照)が入っており、舌の裏側の静脈が膨れ、「瘀血(おけつ)」と「血虚」体質と診断いたしました。
腹診では、下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))をはっきりと認め、腎虚(症例58参照)もあると考えられ、足のむくみもありますので、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん;症例47、222,223、252、253、281、287参照)温経湯(うんけいとう;症例10、64、248参照)を合わせて一ヶ月分処方したところ、3月5日に来られ、「冷えや足のむくみはとれ、肩こりもましになりました。のぼせはまだ少しあります。漢方薬を飲む前と比べて体がとても楽です。」といわれましたので、同じ処方をまた出させていただきました。
次に5月12日に来られ、「のぼせもとれました。しかし、薬が切れるとまた足がむくみます。」といわれましたので、前症例と同様に、いきなり薬をやめずしばらく続けるようにお話させていただきました。

冷えのぼせについては、症例277も参照して下さい。

272.便秘・生理痛・頭痛の漢方治療

症例は37歳女性です。
便秘(市販の下剤を飲むとお腹が痛くなるため飲めず、週に1回自然に出るのを待つ状態だそうです。)・生理痛・頭痛と肩こり(生理前後に強い)の漢方治療のため平成24年3月31日太子町から当院へ来院されました。
冷え症も強く冬はしもやけもできます。
また薬で胃が荒れやすく、イライラもあるそうです。
身長155cm、体重47kg、BMI19.6とやせを認めます。
舌は、色が紫がかり、瘀斑(おはん;舌診についてを参照)を認め、舌の裏側の静脈が膨れ、強い「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう;症例92,93、170、231、244、250参照)加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196、201、204、210、213、214、224、229、230、243255、256、258、263、271参照)を合わせて一ヶ月分処方したところ、5月12日に来られ、「便も毎日出るようになり、薬を飲んでいると生理痛も頭痛もよかったです。」と大変喜んでいただきました。
6月30日に来られた時には、「薬が切れるとまた便秘になりましたので、あわてて来ました。」といわれました。

273.ストレスによる蕁麻疹

症例152にに続いてストレスによる蕁麻疹の症例を載せます。
次の症例は56歳、女性です。
身長153cm、体重77.6kg、BMI33.2と肥満を認めます。
平成14年9月18日に初めて蕁麻疹が出現、近くの皮膚科でアレグラが出ましたがそれを飲んでも蕁麻疹が出るため、ジルテックに変えて当院で出して(家族を当院で診ているため)以来ずっと薬をつづけておられました(やめると出るため、2~3日に1回は飲まれていました)。
この度、外へ働きに出ることになったとたん、ストレスが強くかかり薬を飲んでも蕁麻疹が出るようになったため、平成24年3月14日からジルテックに変えて、加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196、201、204、210、213、214、224、229、230、243255、256、258、263、271、272参照)を飲むように勧めました。
この方の舌は、色は紫がかり、舌先が紅くなっていました(舌尖紅潮;症例72、141参照)。また、舌の裏側の静脈が枝分かれして、「瘀血」(おけつ)体質を認めました。
すると、5月11日に来られ、加味逍遥散を飲むとすぐに蕁麻疹は引いて調子よいが、とにかく薬がまずくて続けられず、ちょっとよくなると、残っていたジルテックを飲むようにし、そしてまた蕁麻疹がひどくなると加味逍遥散で抑えるようにしていたそうです。

私は、「味は慣れてくるので、とにかく漢方薬で体質改善をした方がよい。」と説得させていただきました。

ストレスによる蕁麻疹

一ヶ月以上続いている蕁麻疹を「慢性蕁麻疹」と言いますが、慢性蕁麻疹ではアレルギー以外の「心身のストレス」が原因で起こることが多いようです。
ストレスを感じる度に発疹が出現し、かゆみも出ると心因性じんましんの可能性は高いです。
慢性蕁麻疹を患っている人には自覚しないストレス状態にあることが多いことや、ストレスに対して内向的に適応してしまう傾向があります。

実際、本症例のように職場や家庭の環境の変化を境に蕁麻疹が現れるようになったり、逆にそれまで毎日のように現れていた蕁麻疹が環境の変化の後、全く出なくなることもあります。

じんましんは食物や物理的刺激で起こる病気として有名ですので、ストレスの影響で起きていると判断するのが難しいかもしれません。
ただ、毎日のように繰り返し症状が現れるじんましんでは、心身のストレスにより症状が悪化することが多いようです。

漢方では、ストレスをとるのが得意な薬が用意されていますので、「慢性蕁麻疹」の方は一度漢方を試してみてください。

274.午前中の頭痛の漢方治療

次の症例は62歳、女性です。
平成14年から高血圧で当院へ通院されている方です。アムロジピンという薬を飲まれています。
午前中に決まって頭痛が起こり、ボーとして目の焦点が合わない感じを訴え、平成24年4月23日当院へ来院されました。普段より肩こりが強いそうです。
舌診では、舌の裏側の静脈が膨れ、瘀血(おけつ)体質と診断いたしました。
血圧は、132/76と、血圧はうまくコントロールされています。
釣藤散(ちょうとうさん;症例60、132、324参照)を一ヶ月分処方したところ、5月25日に再診で来られ、「頭痛は消失し、とても調子いいです。」と、言われました。血圧は、130/72と特に変化ありませんでした。
血液検査もしましたが、LDLコレステロールが149と少し高い以外特に異常は認めませんでした。

このように慢性的な頭痛,めまい,肩こりがある高血圧の人には,釣藤散がよく使われます。
釣藤散については、症例60に詳しく説明しておりますので、御参照下さい。

275.慢性乳輪下膿瘍の漢方治療

次の症例は53歳、女性です。
当院へ高血圧症等で通院されている方です。
左乳房に痛みを感じるようになり、近くの婦人科を受診したところ、乳管に膿がたまっているといわれ、総合病院の外科を紹介され、平成24年2月16日に乳腺を切除する手術を局所麻酔で受けられましたが、その後傷口から、3日間点滴で抗生剤を打ち、その後抗生剤(フロモックス)を飲んでいるのに膿が続いて出るため、平成24年3月5日、当院へ血圧の薬を取りに来られた時に相談を受けました。
(長期間にわたって再発を繰り返す、治りにくい病気で、陥没乳頭(乳頭が乳輪の下にもぐっているもの;本患者さんも陥没乳頭です)の人に発症することが多いと説明を受けられています)
身長149.8cm、体重49.8kg、BMI22.2。
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう;症例69、70参照)を二週間分投与したところ、3月19日に来られ、「膿が出るのが止まりました。」といわれましたので治療を終了いたしました。
しかし、4月半ば過ぎより再び左乳房に痛みを感じるようになり、今度は親戚の方が勤めている乳腺クリニックを受診したところ、診断の結果、化膿しているということで、注射針で膿を抜き取りました。そして次回にまた乳腺を切除する手術をするといわれ、また前のようなことは繰り返したくないとのことで4月23日に当院へ来られました。
再度、十全大補湯を二週間分投与したところ、5月14日に来られ、「乳房の痛みもありませんし、膿も出ていません。」といわれました。今度はすぐやめずにしばらく薬を続けたいとのことでしたので、さらに二週間分投与したところ、5月28日に来られましたが、全く問題なく調子よさそうです。

慢性乳輪下膿瘍については、こちらをクリック画像の説明health.goo


十全大補湯について

補気剤の四君子湯(しくんしとう;人参、茯苓、术、甘草)の4生薬、養血剤の四物湯(しもつとう;地黄、当帰、芍薬、川芎)の4生薬、さらに、黄耆(おうぎ)と桂皮(けいひ)を加えた10剤からなる方剤です。
薬効は気血双補(きけつそうほ)といい、気虚と血虚を改善する補剤(ほざい)です。
本剤は免疫賦活作用があり、黄耆と桂皮は皮膚化膿巣や皮膚びらん、潰瘍を治す作用を有するため、しばしば皮膚の化膿性、あるいは潰瘍性病変(褥瘡(とこずれ)、痔瘻、カリエス;脊椎を含む骨組織の結核菌による侵食)に使用されます。

276.眼瞼周囲の皮膚炎の漢方治療

次の症例は65歳、女性です。
両目のまわりが真っ赤で水がたまったように腫れ、かゆみも強いとのことで、平成24年5月10日当院へ来院されました(下の写真は来院時のもの)。

画像の説明

この方の舌を見ると、腫れぼったく、薄い白苔を認めました。
身長149cm、体重46kg、BMI20.7。
梔子柏皮湯(ししはくひとう;症例127、314、443、588、686参照)を1日3回で1週間分処方したところ、5月31日に来られ、「赤味も引いて、いったん治りましたが、薬が切れてしばらくすると、また湿疹がでてきました。」といわれましたので、今度はしばらく続けるようにお話させていただきました。
その後ずっと調子良かったそうですが、昼に飲む分が3日間ほど抜けると、また同じように目のまわりが真っ赤になったと、7月3日に来院されましたので、しばらく1日3回できちんと飲んでいただくことにしました。

梔子柏皮湯について

梔子柏皮湯は少陽病期虚実間証の薬方であり、山梔子(さんしし)、 黄柏(おうばく)、甘草(かんぞう)の三つの生薬から構成されています。
皮膚瘙痒感に頻用される薬方であり、教科書的には皮疹に熱感を伴うことが多いとの記載があります。

眼と五臓の関係を論じた「五輪学説」では脾は肌肉を主っているため、「上下の眼瞼は脾胃に属す」とされ、眼瞼および眼瞼周囲の病変から脾胃の異常を考える必要があります。

また、「足の少陽胆経」は、胆経に属する足を流れる陽経の経絡です。肝臓と胆嚢は共に中国の五行(木、火、土、金、水)でいうと木に属するため密接な関係を持ちます。
その経脈は眼の外角・耳前後・頸側・顎部や脇・肋・腹・膝・下腿外側を循行します。
そのため「足の少陽胆経」の支配を受ける眼瞼、口囲、口唇をはじめとした顔面や耳前後、頸側や顎部の皮膚病変は、その病因として脾胃や肝胆系の異常を考える必要があります。

漢方では、春は肝の病を生じやすいと考えます。そのため、肝の影響を受けやすい目の周りに症状が強く出たり、自律神経のトラブルが出やすいのです。
西洋医学ではあまり季節を重視しませんが、漢方では、季節や自然の変化と人体が受ける影響をいつも考えているのです。

(参考文献 眼瞼や口囲などの顔面の湿疹・皮膚炎に対する梔子柏皮湯の使用経験(第2報) 手塚匡哉 漢方研究 2004.5(168-171))

277.冷えのぼせ(男性例)の漢方治療

次の症例は32歳、男性です。
数年前より、手足(とくに足)が冷えるのに、首から上はのぼせ、赤ら顔になるそうです。
特に秋から冬が症状がひどいそうです。
そのほかの症状として、便秘・胃がもたれる・腹がはる・食べ物の味がしにくい・頭痛・肩こり・イライラ・腰痛などがあります
平成24年3月30日、漢方治療を求め岡山県倉敷市から来院されました。
身長172cm、体重65kg、BMI22.0。
この方の舌を見ると、辺縁が分厚く赤く(この赤みは肝の熱を表しています)、中央に白色の苔がありました。
また、舌の裏側の静脈が膨れ、枝分かれしており、「気滞(気うつ)」+「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。
加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196、201、204、210、213、214、224、229、230、243255、256、258、263、271、272、273参照)と肩こりによく使う葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう;;症例12参照)を合わせて一ヶ月分処方しました。
次に5月30日に来られた時には、「冷えのぼせがよくなり、他も調子いいです。」といわれました。

男性の冷えのぼせはめずらしいですが、女性の場合と同じような薬で改善するようです。

冷えのぼせについて

冷えのぼせは、本来、更年期以降の冷え症の女性に多く見られる症状です。
更年期を迎えると、女性ホルモンの低下から 『交感神経』 が活発に働くようになります。
交感神経優位の状態になると、まず血管が収縮することで血流が悪くなります。さらには、血管と一緒に毛穴も閉じてしまうので、熱が発散できない状態になり、これが 『のぼせ』 につながります。
この場合、血管が収縮し血流は悪くなっているので、下半身や足先は冷えたまま…ということになります。
要するに、冷えのぼせは、更年期以降の自律神経失調のひとつの症状と考えられます。
ストレスの増大、寝不足や過度のダイエットなど様々な要因が、自律神経のバランスを崩します。

冷えのぼせの場合、とにかく『体は冷えているのだ』 ということを忘れないでください。
冷えのぼせの人は顔が暑くなったり、汗をかいたりするので、冷やさないといけないのかと思うかもしれませんが、顔を冷やそうと思って冷たい飲み物を飲んだり、冷房温度を下げたりするのは、全くの逆効果になります。
最終的には、体の冷えを解消しないと、冷えのぼせはよくならないので、対処法としては冷え症を改善することです。
『体を冷やす習慣をやめて、体を温めるような食べ物を取るなどして、とにかく体を温める』ことで、冷え症と同じように、冷えのぼせも改善していくのです。

更年期の女性に女性ホルモンの低下が生じるのとおなじように、男性にもホルモンの低下はおとずれます。
男性の場合、ホルモンの低下のスピードは女性にみられるほど急激なものではないようですが、社会的なストレスなどにより、男性の更年期障害も女性の更年期障害とほぼ同様の、精神的な倦怠感や抑うつ、興奮などがおこります。
また、肉体的にも、女性の更年期障害によくみられるような、のぼせや発汗、体の痛みなどが出ることもあるようです。

男性の更年期障害の症状については、こちらをクリック画像の説明男性更年期障害の原因と症状・治療法

278.交通事故後の体調不良の漢方治療

次の症例は38歳、女性です。
約6ヶ月前に交通事故(停車中、後ろから車に追突され、自分の車は大破して廃車となった)に遭い、病院でMRI検査やその他の精密検査を受けましたが、幸い異常は見つかりませんでした。
しかし、事故の後から首や腰が痛むようになり、ちゃんと仕事ができなくなったそうです。また、下痢や便秘の繰り返しとなり、キリキリと胃が痛んだりするようになったそうです。
そのほかに、頭痛・肩こり・疲れやすい・イライラする・立ちくらみ・手足の冷え・手足のしびれ・気分が沈む・寝つきが悪い・夜中に目が覚める・嫌な夢をみる・生理痛が強いなど事故前には全く見られなかった症状がたくさん出るようになったそうです。
病院や鍼灸院などを10ヶ所くらい行きましたが、消炎鎮痛剤(ロキソニン)をもらっても、全く症状はよくならず困り果てていたところ、知人に当院を紹介され、平成24年4月27日漢方治療を求め姫路市から来院されました。
身長160cm、体重50kg、BMI19.5とやせを認めます。
この方の舌をみると、色は紫がかり、舌先が紅くなっていました(舌尖紅潮;症例72、141参照)。また、舌の裏側の静脈が枝分かれして、「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。
加味逍遥散(かみしょうようさん);症例72参照)抑肝散(よくかんさん;症例24、25参照)を合わせて一ヶ月分処方したところ、6月4日に来られ、「薬を飲んでから首や腰の痛みがとれ、そのほかの症状もほぼすべて消えましたので、薬はそれ以上続けてはいけないと思いやめていたところ、また調子悪くなってきました。」といわれましたので、今度はしばらく続けるようにお話させていただきました。漢方薬がお役に立ててほんとうによかったです。

イライラによって身体症状が増悪する時には柴胡剤(漢方処方の分類で「柴胡(さいこ)」と「黄芩(おうごん)」の二味を主薬とする処方群を柴胡剤という)が有効です。
たとえばイライラして蕁麻疹ができる、アトピー性皮膚炎がかゆくなるという場合、抑肝散が有効です。動物実験では抑肝散はストレスによるアレルギー反応の増悪を抑制することが示されています。
また抑肝散は、本症例のようにイライラで増強する疼痛にも有効な場合があります。
抑肝散は、明時代の小児医学書「保嬰撮要」に掲載されている処方で、肝の高ぶりが怒りや興奮などの精神症状をもたらすと考えられ、これを抑えることから名付けられています。
元来小児のひきつけに処方されていたが、その構成生薬から鎮痛作用・鎮痙作用・抗不安作用があります。

279.小児の便秘と口臭の漢方治療

次の症例は10歳、女児です。
便が一週間に一度くらいしか出ず、出る時も便塊がとても大きく排泄が大変なため、平成23年4月4日漢方治療を求め姫路市から来院されました。
身長147cm、体重35kgとやせを認めます(標準体重42kg)。
またお母さんが言われるのには、「便の匂いもとても臭く、口臭も気になる。」とのことでした。
そのほかの症状として、のどがつかえる・手のひらに汗をかきやすいなどがあります。
この方の舌をみると、舌先が紅くなっていました(舌尖紅潮;症例72、141参照)。また、白苔も認め、腹診では腹直筋攣急 (ふくちょくきんれんきゅう;触診で腹直筋を触知したときに、肋骨弓付着部~恥骨結合部まで、全長にわたって緊張の強いものを腹直筋攣急という;下図参照)を認めました。
桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう;症例78参照)を一ヶ月分処方したところ、5月24日に来られ、「便は毎日出るようになり、口臭も気にならなくなりました。」とお母さんがいわれました。
その後は薬なしでもなんとか便が出ていたそうですが、最近また便の出が悪くなり、口臭が気になりだしたとのことで、平成24年6月11日に来られましたので、また同じ薬を処方させていただきました。

桂枝加芍薬湯はおなかが張って、腹痛や排便異常を起こしているときに用います。下痢もしくは便秘があってもかまいません。ふだんから胃腸が弱く、体力のあまりない人に向いています。

カゼのひき始めによく使う桂枝湯“芍薬”の量を増やし、痛みをおさえる作用を強化したものです。方剤名の由来もそこにあります。漢時代の「傷寒論」という古典書で紹介されている処方です。

小児の便秘については、症例190、192、631、647も参照下さい。

腹直筋攣急について

全般に腹壁は薄く、全体に厚みのない柔らかいお腹で、腹直筋が薄く筋張っているもの。
これは、肝気の昂ぶりを示しており、”芍薬”という生薬を使用をサインです。

左右の両腹直筋が中等度以上に緊張しているため実証と間違いやすいが、識別は腹直筋の外側を五指の中三本で上から下まで、中三本を斜めにそろえて1~2cmの間隔で、上から下へと按圧するとフニャッとしていて力強さを感じません。腹力の軟弱であり虚証の腹証です。
知覚過敏でくすぐったがることも多いです。
画像の説明


便秘の症状

便秘には、しばしば、吹き出物やシミなどの皮膚トラブル、いらいらや不眠といった精神症状、肛門周囲の鬱血による痔疾の悪化、そのほか、口臭や肩こりなど直接的な因果関係の分かっていないものも含めて、さまざまな症状が見られます。

  • 吹き出物・しみ
  • 頭痛・肩こり・腰痛
  • よくのぼせる
  • 食欲がない
  • 肌荒れ
  • 顔色が悪い
  • 冷え性
  • 気力がない
  • いらいら・不眠
  • 口臭
  • おならが多く、臭い

280.肝咳の一例

西洋医学では治療が非常に難しい咳として腎咳(症例161、194、238参照)を以前紹介しましたが、今回の肝咳もやはり西洋医学では治療が非常に難しいとされています。
症例は37歳、女性です。
10年前より、風邪をひくと咳が1、2ヶ月と長引き、咳のしすぎたため肋骨の疲労骨折を起こしたこともあるそうです。
今年の冬も咳が多く、朝だけ市販の風邪薬を飲んでしのいでいたところ、平成24年4月10日から風邪症状(咳・咽頭痛)がひどくなり、4月11日病院を受診し、メイアクトという抗生物質をもらわれましたが、4月15日より、39℃代の発熱が続き、右肺の細菌性肺炎を起こしてしまったそうです(白血球数34000、CRP13.0)。治療により、検査所見は改善(白血球数3900、CRP0.9)し、咳は少なくなったそうですが、右背部の痛みが続いたり、体調不良が続くため、4月25日漢方治療を求めて姫路市から来院されました。
なお4月11日にアレルギーの検査を受けられていますが、ハウスダスト、カモガヤ、イヌ、スギ、ヒノキすべて陰性でした。
身長154cm、体重48kg、BMI20.2。
他の症状として、便秘傾向だが、週に1回は下痢になる・疲れやすい・生理前にイライラしたり気分が沈んだり、めまいがする・手足の冷えなどがあります。
なお、以前に漢方薬の小青竜湯(しょうせいりゅうとう)を処方されたことがあったそうですが、胃がもたれ、食欲がなくなり中止したそうです。胃はあまり丈夫でなさそうです。
この方の舌を見ると、腫れぼったく、白苔と歯痕舌を認めました。
加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196、201、204、210、213、214、224、229、230、243255、256、258、263、271、272、273、277参照)六君子湯(りっくんしとう;症例97,154、178、179、182、202、248、258、291、301参照)を合わせて一ヶ月分処方しました。
一ヶ月後の5月22日に来られた時には、「背中の痛みは軽くなり、体調はずいぶん良くなってきましたが、まだ空咳が続きます。」といわれましたので、加味逍遥散を滋陰至宝湯(じいんしほうとう)に替えて、六君子湯とともにさらに一ヶ月分処方したところ、6月12日に来られ、「薬を飲み始めて、1週間目ぐらいにポッと痰が出て、それから全く咳が出なくなりました。」といわれました。私が「どうもストレスから来る咳のようでしたね。」といいますと、詳しくは聞きませんでしたが、「私本当にストレスが多いんです。」といわれました。

滋陰至宝湯(下田 憲先生のコメント)

気陰両虚(食欲不振・元気がない・疲れやすい・皮膚の乾燥・やせる・盗汗;寝汗)のものや婦人虚労(後述)に使います。
慢性の弱い炎症で、粘稠で切れにくい痰・咳が目標です。

虚労とは、虚損労傷の略。
五臓の諸虚不足によって生じる多種の病証の総称です。
長期の疾病で体力が衰弱したものを「虚」、長期の虚が回復しないものを「損」、虚損が時を経るものを「労」という。
つまり、長期の疾病で体力が衰弱した状態が回復せず、時を経た状態を指します。

滋陰至宝湯には、“柴胡・香附子”という婦人の聖薬が入っています。つまり、虚弱者に使う、逍遥散+麦門冬湯という観があります。
逍遥散‥肝鬱血虚脾弱症に使います。
※加味逍遥散=逍遥散+牡丹皮・山梔子
ストレスを受けると、特に肝が傷つくと漢方では考えます。その結果、肝気鬱結(肝鬱)といって肝の気がスムーズに流れない気滞が生じます。気は陽気ですから、鬱滞すれば熱が発生します。

滋陰至宝湯は別名を疏肝健脾滋陰清熱止咳湯といいます。
(疏肝‥肝気をのびやかに行きわたらせる=柴胡・香附子)
(滋陰清熱‥「陰液=血と水」を補い、熱をさますこと)

自律神経系の失調を主体とした呼吸器系の慢性炎症(強い炎症には向かない)が目標です。
年をとった人の遷延した肝咳(ストレスを受けため起こる咳)によく効きます。
若い人の肝咳は神秘湯(症例74、172参照)を使います。本症例の場合、神秘湯では体力的に無理(以前小青竜湯で、胃腸障害あり;神秘湯も小青竜湯と同様、麻黄という生薬を含みこれが原因と考えられる)だと考え、滋陰至宝湯を使いました。

中医学最古の古典である黄帝内経には”五臓六腑,全て咳を生じる。肺のみに非ず”という下(くだ)りがあります。咳をしている人を診たときには、肺がどういう状態にあるのかを分析しないといけませんが、それ以外の臓器との関連性もみながら治療していく必要があります。


肝咳について(下田 憲先生のコメント)

私のところに来るのはとにかく肺咳や腎咳が多いです。肝咳はやはり少ないですが、心や脾の咳というのはほとんどありません。
肝咳というのはストレスに伴う発作です。
子供がお母さんに叱られたとたんに発作を起こしたり、ご夫婦が夫婦喧嘩をして、夫から「おまえなんか死んでしまえ。」等いわれて大発作を起こしたり、配偶者に死なれてしまい、その後、突然咳が出だした等。
これも腎咳同様、西洋医学では治療が非常に難しいのです。
肝咳は、西洋医学でも心療内科的診断のできる医者はトランキライザー等を使って治療できますが、普通の治療ではダメです。

281.脊柱管狭窄症(腰部脊柱管狭窄症)の漢方治療

次の症例は65歳、女性です。
4年前より、腰痛があり整形外科を受診したところ、脊柱管狭窄症(腰部脊柱管狭窄症)+右坐骨神経痛と診断され、神経の血流を促進するオパルモン(プロスタグランジン製剤)と、しびれに対してはメチコバール(ビタミンB12製剤)が処方されましたが全くよくならず、平成23年10月25日奈良県香芝市から漢方治療を求め来院されました。
また、左の膝の痛みもあり、こちらはヒアルロン酸の注射をされていますが、こちらもよくならないそうです。
身長163cm、体重63.5kg、BMI23.9。
他の症状として、便秘・足首が冷える・頻尿があります。
この方の舌をみると、色はやや紫がかり、舌先が紅くなっていました(舌尖紅潮;症例72、141参照)。また、舌の裏側の静脈が枝分かれしていました。
腹診では、下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))をはっきりと認め、「瘀血」(おけつ)+「腎虚」(症例58参照)体質と診断いたしました。
腎虚に使う牛車腎気丸(ごしゃじんきがん;症例47、222,223、252、253参照)薏苡仁湯(よくいにんとう;症例40、111参照)を合わせて一ヶ月分処方しました。
12月6日には、「体がポカポカして痛みもなくとても調子いいです。」といわれました。
その後、4ヶ月ほど薬を続けられ、いったん治療を終了されましたが、平成24年6月12日に電話がかかってきて、「せっかく治っていたのに、最近また痛みが出てきました。」といわれましたので、また同じ処方を出させていただきました。

本症例の場合、牛車腎気丸に合わせる薬に悩みましたが、薏苡仁湯は、ブシ末(牛車腎気丸に含まれる)と合わせると気・血・水すべての流れをよくすることができる(下記参照)ため使用しました。

脊柱管狭窄症については症例68、162、233、316も参照下さい。

薏苡仁湯について(下田 憲先生のコメント)

薏苡仁湯を使うときは、ほとんどの場合附子を加えて薏苡仁湯加附子という処方になります。私のところで附子を加えないで薏苡仁湯だけを処方している人は1人か2人です。
薏苡仁は水に働き、いつも言うように血にも働いていると思います。血に働くと言うのは私だけなのです。だから一応括弧でくくります。
生薬図鑑にも一切、血に働くと書いていないからあまり言えないのです。でも効き目を見ているとやはり血に働くと思っています。表向きは水ですね。
麻黄は水に働き温めます。朮は水に働き、当帰は血に働き温めます。芍薬は血に働き、桂枝は水と気に働き温めます。甘草も温めます。附子は大熱と言って大いに温め痛みを止めます。
こう見てくると薏苡仁湯加附子は慢性炎症の炎症、痛み、冷え、血、水の治療の全部を満たすのです。
しかも帰経を考えてみれば解るのですが、薏苡仁、麻黄は太陰(=脾・肺)、朮は少陰(=心・腎)、当帰はどちらかというと少陰、芍薬は肝、桂枝は太陰から少陰の水の道に作用します。甘草は十二経、附子は厥陰(=肝)から少陰で三焦経の薬と言われています。
この様に三経に作用してバランスがとれています。これは重要なことです。慢性の炎症が続いて筋肉や関節の痛みが続いているときは筋肉の衰えと筋腱の働きが衰えたために骨が支えられなくなっているのです。筋肉を養っているのはで、筋腱を調節しているのはです。骨を支配しているのはです。
要するに慢性炎症が続いてずっと進んでくると、必ず、この三つがやられているのです。私のところに来るぐらいの人は必ずこの三つがやられているのです。
稀に二つの人がいますが、診療の場を山奥に移せば移すほど、こういう人が来るのです。山部にいた時はこういう人は4,5割ぐらいでしたが、今のところに来てからは8割がこういう人達です。三経がやられている人は少し深くなっているので薏苡仁湯が効くのです。当帰は体の深いところに働きます。薏苡仁もやや深いところに作用します。
薏苡仁湯に附子が加わると、主として下半身の痛みを訴える人によく効きます
薏苡仁湯はよくバランスのとれた処方であることが解るのです。附子を入れない薏苡仁湯は、意外と作用範囲が狭くてあまり使われていないのですが、附子を加える事によって非常にバランスのとれた良い薬として、慢性の炎症が進行して深くなって下半身に強い症状のある人によく使いますし、よく効きます

282.変形性膝関節症の漢方治療

次の症例は71歳、女性です。
約15年前より、両方の膝の痛み(膝全体が痛むそうです)が出現、整形外科で種々の治療を受けられました(ヒアルロン酸の注射など)が全くよくなりませんでした。
また、数年前から腰痛もあり、こちらは脊柱管狭窄症と診断されています。
途中で整形外科への通院をやめ、尼崎へAKA・博田法(関節運動学に基づき、関節神経学を考慮して、関節の遊び、関節面の滑り、等の関節包内運動の異常を治療する方法、および関節面の運動を誘導する方法)を受けに月1回行かれ、腰痛はある程度よくなったそうです。
しかし、遠方のためだんだん通院できなくなり、困っていたところ、知人に紹介され4月9日漢方治療を求めて姫路市から来院されました。
身長154.5cm、体重62kg、BMI26とやや肥満を認めます。
他の症状として、便秘傾向・快便感がない・頻尿・手足がむくみやすい・汗をかきやすい・のどが渇く・疲れやすい・食後眠くなる・耳鳴り・手足の冷え・夜中に目が覚める・青あざができやすいなどがあります。
この方の舌を見ると、色は紫がかり腫れぼったく、歯痕舌を認めました。また、舌の裏側の静脈が太く、枝分かれして、「気虚」+「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。
下肢には静脈瘤ができていました。
膝の痛みによく使う防已黄耆湯(ぼういおうぎとう;症例76参照)に、鵞足炎(症例227、228、268参照)に使う治打撲一方(ぢだぼくいっぽう)に体を温める附子(ブシ;症例2参照)を合わせて1日2回で一ヶ月分処方させていただいたところ、4月24日に来られ、「膝の腫れは引いてきて、足が軽くなってきました。また朝の目覚めがよくなってきました。しかし、痛みは変わりません。」といわれましたので、治打撲一方を桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん;症例67参照)に変えてさらに一ヶ月分処方いたしました。
6月1日に来られた時には、「痛みが楽になってきました。プールに行くとまだ少し痛みますが、2、3日休めばまたよくなります。」といわれました。
次に6月14日に来られ、「1時間くらいキッチンにたてるようになりました。」といわれました。
「今までいろんな治療を受けてもだめでしたが、先生のところで初めてよくしていただきました。」と大変感謝していただきました。
漢方薬がお役に立ててほんとうによかったです。

変形性膝関節症の漢方治療については症例2,76,111,131,184,207,209,227,228,245,268,269,283,300,311,319,334,355も参照して下さい。

関節の痛みについて(下田 憲先生のコメント)

ちなみに言うと「動かす」というのは本当に大切なことです。
整形外科はごく最近まで、「痛いなら動かすな!」と言ってどんどんダメにしてきたのです。
「動かさないでいてダメになったらそこを人工関節にしますよ。」というのは治療といえるのかどうか。
例えば脳卒中で寝たきりの人は、リウマチでなくても動かさなかったら関節がダメになるのはあたり前ですね。それと同じことを医者がやってきてしまったのです。
最近整形もだいぶ変わってきました。骨粗鬆症と取り組んでいる整形の先生は、「動かそう。」と言います。骨粗鬆症の場合ははっきりしています。動かさないとどんどん進行するということはわかっています。そういうものに取り組んでいる先生は、「どんな患者さんも出来るだけ動かしたほうがいい。」と言います。
動かしていると、最初にスライドでお見せしたように、膝関節の隙間が狭くなっていても開いてきますし、肘関節もそうです。股関節等はほとんどつぶれていたのが、きれいに関節面が出て来たような人がいくらでもいます。動かさないと軟骨はなくなるのです。動かしていれば必要に応じて軟骨は又戻ってきます。
実際私のところに来た患者さんは、私が他動的に痛がるところまで動かして、「この様に動かすのですよ。」と指導します。動かしていると必ず戻ってきます。

283.変形性膝関節症の漢方治療で口臭がとれた症例

次の症例は79歳、女性です。
薬10年前から右膝が痛み(かばうので左も少し痛む)があり、整形外科を受診されましたが、どこの整形外科へ行っても、「使い痛みです。」といわれ、ヒアルロン酸の注射と、解熱鎮痛薬を処方されましたが、痛みは改善せず、「後は手術しかない。」といわれるそうです。
身長148cm、体重50kg、BMI22.8。
他の症状として、夜間頻尿・足がむくみやすい・肩こり・耳鳴り・手足の冷え・腰痛などがあります。
この方の舌を見ると、色は紫がかり腫れぼったく、舌の裏側の静脈が太く、枝分かれして、「気虚」+「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。
下肢には細絡(症例91参照)もできていました。
膝の痛みによく使う防已黄耆湯(ぼういおうぎとう;症例76参照)に、瘀血体質の神経痛に使う、疎経活血湯(そけいかっけつとう;症例1参照)と風呂で温めると痛みが和らぐとのことでしたので、冷えがあると判断して、体を温める附子(ブシ;症例2参照)を合わせて開始したところ、6月29日に来院され、「薬を飲み始めてから、4日目に今まで膝が熱っぽい感じがしていたのが引いて足がとても軽くなりました。腫れもひきました。また、ジンジンした感じもとれ、右膝の裏にできていたコブのようなしこりもずいぶんやわらかく小さくなりました。まだ、足を引っ掛けた時などに少し痛みますが、今まで何の治療をしても全くよくならなかったのにとてもよくしていただきました。」といわれました。

これだけでしたら、何も珍しくないのですが、最後に、「今まで何回歯ブラシをしてもとれなかった口臭がとれました。」と、意外なことをいわれました。いっしょに来られていた娘さんもうなづいておられましたから、本当に口臭がとれたのは間違いないようでした。
漢方では予期せぬ症状がとれたりしますが、このメカニズムは何かよくわかりません。本当に不思議です。

変形性膝関節症の漢方治療については症例2,76,111,131,184,207,209,227,228,245,268,269,282,300,311,319,334,355も参照して下さい。

284.高校生の鼻出血の漢方治療

次の症例は15歳、男性です。
以前より時々は鼻血がありましたが、高校生になってから2~3日に一度鼻血が出るようになり、平成24年5月19日漢方治療を求めてたつの市から来院されました。
身長161cm、体重49kg、BMI18.9とやせを認めます。
そのほかの症状として、目が疲れる・首の後ろが凝る・疲労感・手足が冷える・軟便(1日3回以上)などがあります。
この方の舌は異常ありませんでしたが、腹診では腹直筋攣急 (ふくちょくきんれんきゅう;症例279参照)を認めました。
典型的な小建中湯(しょうけんちゅうとう;症例26、29、145、190、192参照)の証でしたので、一ヶ月分処方しました。
6月7日に来られた時には、「鼻血はピタッと止まりましたが、立ちくらみがします。」といわれましたが、そのまま薬を続けていただき、次に7月2日に来られた時には、「鼻血も出ませんし、立ちくらみも治りました。体の調子がとてもいいです。」といわれました。

この方は高校生になり、陸上部の長距離走を始められ、それによる体力の消耗により、それまでの小児虚弱体質(症例26参照)や脾虚体質(症例97参照)がよりはっきりと顕在化して、鼻血の増加につながったと考えられました。

小児の鼻出血については、症例29、145も御参照ください。

285.おねしょの漢方治療

次の症例は7歳、男児です。
ほとんど毎日おねしょをするのと、ふだんから疲れやすく、37℃後半の微熱が続き、年に2回ほど肺炎で入院するため、平成24年6月5日漢方治療を求めてたつの市から来院されました。
身長116cm(標準より5cmほど低い)、体重18kg。体温37.8℃。

他の症状として、症例26に書いた中で、

  • 便秘傾向(2日に1回)。
  • 食が細く、甘い物を好む。食べても肥えない。
  • まつげが長い(=過敏性体質の子供が多い)。
  • 子供のくせによく、「足がだるい・痛い」という。
  • 汗をかきやすい。寝入りばなの頭汗。

がありますが、鼻血が出ることはないそうです。

この方の舌は異常ありませんでしたが、腹診では腹直筋攣急 (ふくちょくきんれんきゅう;症例279参照)を認めました。
典型的な小児虚弱体質で、小建中湯(しょうけんちゅうとう;症例26、29、145、190、192、284参照)の証でしたので、本剤と、気虚発熱(症例15、166、267、321参照)を疑い、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を合わせて一ヶ月分処方しました。
一ヶ月後の7月5日に来られた時には、お母さんが、「おねしょが週に1回くらいに減りました。また微熱が出る事もなくなり、便も毎日出るようになりました。」と、大変喜んでいただきました。

小建中湯は、子供の夜尿症によく処方される漢方薬です。

おねしょの漢方治療については症例481も参照下さい。

子供の夜尿症についてについては、こちらをクリック画像の説明おしっこトラブルどっとこむ

286.自律神経失調症の漢方治療

次の症例は40歳、男性です。
一年前に派遣切りにあってから、以下に述べるような様々な心身の不調があり、神戸の病院の更年期外来を受診したところ、自律神経失調症と診断され、八味地黄丸(はちみじおうがん;症例42、216、235参照)が処方されましたが、下痢がひどくなり中止し、平成24年5月12日漢方治療を求めて来院されました。
症状は実に多彩で、不眠(寝つきが悪い)、夜中に目が覚める・下痢・快便感がない・げっぷ・吐き気・喉がつかえる・薬で胃が荒れやすい・食欲不振・汗をかきやすい・口が渇く・肩こり・にきび・鼻づまり・息が吸いにくい・体がだるい・疲れやすい・食後眠くなる・動悸がする・耳鳴り・めまい・立ちくらみなどがあります。
この中で特に困るのは、食欲不振、動悸(特に寝る前や朝方)、下痢、耳鳴りだそうです。
身長171cm、体重94kg、BMI32.1と肥満を認めます。
この方の舌を見ると、舌が腫れぼったく、べっとりと白苔を認めました。
腹診では下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))を認め、腎虚(症例58参照)と考えられました。
半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう;症例17、89、163、176、179、188、218参照)桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう;症例57、224、431参照)を合わせて一ヶ月分処方しました。
一ヶ月後の6月8日に来られた時には、「下痢はあるにはあるがだいぶましになり、動悸も減ってきました。ただ吐き気と朝にまだ食欲不振があります。」といわれましたので、さらに同じ処方を続けたところ7月8日に来られ、「下痢はほぼおさまり、時々便がゆるくなる程度になりました。食事もよく食べれるようになり、夜もよく寝れるようになりとても体が調子よくなりました。」といわれました。ただ耳鳴りだけは続いているそうです(耳鳴りはずっと以前よりあるそうです)。

八味地黄丸は、本症例のように胃腸が弱く、食欲不振や吐き気、嘔吐や下痢などを起こしやすい人は慎重に用いないといけません。

桂枝加竜骨牡蠣湯についてについては、症例57とこちらをクリック画像の説明昌平クリニック

287.腰椎椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛の漢方治療

症例は63歳女性です。
約1年半前より、腰痛と左臀部から足先にかけてがしびれて痛み、人の足のような感じがするそうです。
整形外科を受診したところ、L4-L5間の腰椎椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛と診断されたそうです。
治療は、消炎鎮痛剤とリハビリで電気をあてたり、牽引療法をしたり、神経根ブロック注射などをしてこられましたが全く改善しなかったそうです。
他院内科に、高血圧症でも通院されています。
平成23年9月6日、知人の紹介で漢方治療を求めてたつの市から来院されました。
身長156cm、体重63kg、BMI25.9とやや肥満を認めます。
この方の舌を見ると紫がかり、腫れぼったく、歯痕舌を認めました。また、舌の裏側の静脈が太く、枝分かれして、「気虚」+「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。
風呂で温めると少し楽になるとのことでしたので、腰冷痛、腰股攣急(症例36参照)によく効く五積散(ごしゃくさん;症例36、37、40、180、216、225、226参照)と、「瘀血」体質の神経痛に使う疎経活血湯(そけいかっけつとう;症例1、68、160、231、232、247、262、269、283参照)に、体を温める附子(ブシ;症例2参照)を合わせて一ヶ月分処方したところ、10月18日に来られ、「腰痛はだいぶましになってきましたが、重い物を持つとまだ症状が出ます。坐骨神経痛は夜間に少し症状が出るくらいです。」といわれました。また、「まだ冷えを感じる。」とのことでしたので、附子の量を倍量にさせていただきました。
いったんこれで治療を終えましたが、平成24年5月1日に再び来られ、「左足のしびれとつっぱりがまた出ています。」といわれました。
腹診をしますと、下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))をはっきりと認めましたので腎虚があると考え、五積散を牛車腎気丸(ごしゃじんきがん;症例47、222,223、252、253、271、281参照)に変えて一ヶ月分処方したところ、6月29日に来られ、「とても調子いいです。」といわれました。

同じような症例1、28、40、183、231、232、244、247、290も参照してください。

288.生理前後の片頭痛の漢方治療

症例は39歳女性です。
約10年半前より、生理の前後と、排卵日に吐き気やめまいを伴う頭痛がし、市販のナロンエースを1日2~3回内服してきたそうです。
今回知人の紹介で、平成24年6月25日漢方治療を求めてたつの市から来院されました。
他の症状として、胃がもたれる・薬で胃があれやすい・手、足、顔のむくみ・肩こり・体がだるく、疲れやすい・生理前にイライラしたり気分が沈む・手足の冷えなどがあります。
身長163cm、体重61kg、BMI23.0。
この方の舌を見ると、腫れぼったく、歯痕舌を認めました。
また色が紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「気虚」+「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。
加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196、201、204、210、213、214、224、229、230、243、255、256、258、263、271、272、273、277、280参照)呉茱萸湯(ごしゅゆとう;症例51、169、199、213、261、288、293、304、388、400、450、505をあわせて処方したところ、7月19日に来られた時には、「ナロンエースを3回だけ飲みました。ただし、頭痛は出ても軽く、吐き気やはめまいが伴うことはありませんでした。」といわれましたので、また同じ処方を続けていただきました。
このまま漢方薬を続けていただければ、ナロンエースは必要ななくなると思います。

なお呉茱萸湯は、めちゃくちゃ苦くて(ある教科書には青虫をすりつぶして粉にしたような味と書いてあります)、加味逍遥散の甘味でなんとか飲めたそうです。
私は、「苦くて飲みにくくても、ナロンエースとちがって胃にもやさしいし、とてもいい薬ですよ。」と言わせていただきました。

月経関連片頭痛の特徴

男性に比べ、痛みが長く続いたり、吐き気や音や光に過敏になるなど頭痛以外の症状が強く発現するのが特徴といわれています。

289.右肩から右上腕にかけての痛みの漢方治療

症例は59歳女性です。
右肩から右上腕にかけての痛み(車でバックする時などに肩を動かすとギクッと痛みが走ったり、腹ばいで本を読んだりする時に痛む)のため平成24年4月13日漢方治療を求めて高砂市から来院されました。
きっかけは、「パソコンやパチンコのしすぎではないかと思う。」とのことでした。
身長154cm、体重62kg、BMI26.1と肥満を認めます。
この方の舌を見ると、紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。
治打撲一方(ぢだぼくいっぽう;症例227、228、268、282参照)と肩こりや肩甲部の神経痛に使う葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう;症例12参照)を合わせて一ヶ月分処方しました。
次に7月13日に来られた時には、なんと「薬を飲み始めて2袋目に痛みがなくなりました。次に4日目にまた痛くなりかけたのでまた1袋飲んだら痛みがおさまり、それ以後痛みはない。」そうです。薬を飲むかやめるか悩んだそうですが、結局適当に飲み続けられているそうです。

コメント

治打撲一方は、背中や腰の筋肉が「つっぱった感じがして」とか、「ひねるのがつらい」時によく使用されますが、この症例も車でバックする時などに肩を動かすとギクッと痛みが走るとのことでしたので、「体をひねると痛む」と拡大解釈して使用しました。
また、治打撲一方は外傷が契機の関節障害にも使用しますが、本症例も、「パソコンやパチンコのしすぎ」による外傷と拡大解釈できなくもないかな、と考えております。

290.腰椎椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛の漢方治療

症例は67歳男性です。
平成19年4月より、右の坐骨神経痛があり、総合病院の整形外科で腰椎椎間板ヘルニアと診断され、種々の治療を受けられましたが、改善しなかったそうです。ただし、3年目には整形外科医から腰椎椎間板ヘルニアは治癒していると言われたそうです。
しかし、坐骨神経痛は全くよくなっておらず、最近では左の足もしびれるようになってきたそうです。
親戚の内科医にも、五積散(ごしゃくさん;症例36、37、40、180、216、225、226、287参照)を処方してもらったみたいですが、全く効果なかったそうです。
困り果てていたところ、平成24年4月12日の揖龍地区薬剤師研修会での、「慢性疼痛の漢方治療」という私の講演会を聴いてくださった薬剤師さんからの紹介で、5月2日漢方治療を求めてたつの市から来院されました。
身長170cm、体重70kg、BMI24.2。
他の症状として、手足の冷え(顔はのぼせる)、ねつきが悪い・夜中に目がさめるなどがあります。
この方の舌を見ると、腫れぼったく、白苔と歯痕舌を認めました。
また、色が紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「気虚」+「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。
腹診をしますと、下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))をはっきりと認めましたので「腎虚」もあると考え、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん;症例47、222、223、252、253、271、281、287参照)と、「瘀血」体質の神経痛に使う疎経活血湯(そけいかっけつとう;症例1、68、160、231参照)に、体を温める附子(ブシ;症例2参照)を合わせて一ヶ月分処方したところ、5月28日に来られましたが、期待に反し、「全く変化ありません。特に午後から症状が強くなります。」といわれました。
もう一ヶ月同じ処方で様子をみていただきましたが、6月27日に来られ、やはり「全く変化なし。」とのことでした。
しかたがないので、疎経活血湯を薏苡仁湯(よくいにんとう;症例40、111、281参照)に変えて一ヶ月分処方したところ、7月23日に来られ、「痛みがとても和らぎました。脳が活性化した感じです。今まで痛みのため、何もできなかったのが、いろんな事に興味をもってできるようになりました。」といわれました。
さらに奥様が、「今まで痛みのため私と口げんかする元気もなかったのに、最近するようになりました。」とうれしそうに話してくださいました。

さてこの症例をどのように考えるかですが、素直に考えれば薏苡仁湯が劇的に効いた、もう一つは牛車腎気丸がゆっくりと効いてきた、の2つが考えられると思いますが、おそらくは両方ではないかと考えます。
症例281の下田 憲先生のコメントを見ていただくと、本症例にぴったりのような気がしますし、腎虚の薬はわりとゆっくり効いてくることが多いからです。
いずれにしても痛みに苦しむ方がまたひとり、漢方薬によって痛みから解放されたことは本当によかったです。

291.帯帽感(頭帽感)の漢方治療(3)

症例195、239に続いて、帯帽感(頭帽感)の症例を載せます。
症例は30歳男性です。
若い頃より、胃腸虚弱で、歩くと胃でポチャポチャ音がする、頭が重いなど体調不良が続くため、平成24年6月5日ホームページを見て漢方治療を求めて高砂市から来院されました。
身長175cm、体重57.5kg、BMI18.8とやせを認めます。
他の症状として、腹がはる・胃もたれ・みぞおちがつかえる・足や顔がむくむ・肩こり・食欲不振・体がだるい・疲れやすい・手足が冷える・食後の眠気・風邪を引きやすい・夜中に目がさめる・いやな夢をみる・眠りが浅いなどがあります。
舌の色は淡く、腫れぼったく、歯痕舌を認め、腹診では、胃内停水音(動いた時や胃の辺りを叩いた時などに、胃の所でチャプチャプと音がするような状態を、漢方では胃内停水といい、その音を振水音という。これは胃に余分な水分が溜まってしまった状態をである)を聴取しました。
典型的な「脾虚」(症例97参照)ですので、六君子湯(りっくんしとう;症例97,154、178、179、182、202、248、258、280、301参照参照)を一ヶ月分処方しました。
一ヶ月後の6月30日に来られた時には、「薬を飲みだして2週間目ぐらいからとても体調がよくなってきました。しかし、頭皮が凝った感じがして、頭に帽子をかぶっているような感じがします。そしてまだ眠りが浅いです。」といわれましたので、帯帽感を訴えるのは、加味逍遥散か加味帰脾湯なので(症例195参照)、夜中に目が覚める・眠りが浅いなどの症状から加味帰脾湯(症例45、193、239参照;加味帰脾湯の人は、ちょっと五臓の「脾」が衰えていて(脾虚体質)、軽いうつがある人に使います)を六君子湯に加えたところ、7月27日に来られ、「よく寝れるようになり、帯帽感もすっかりとれました。」といわれました。

これでめでたし、めでたしなのですが、最近汗をかくせいか、みぞおちが冷え、またみぞおちがつかえる感じがするといわれましたので、六君子湯に変えて人参湯(にんじんとう;症例8参照)を処方させていただきました。

292.首の痛み・肩こりの漢方治療

症例は63歳女性です。
二十数年前より、首の痛みと肩こりがありましたが、治療は受けていないそうです。
今回、平成24年2月15日に漢方治療を求めて赤穂郡から来院されました。
身長160cm、体重50kg、BMI19.5とやせを認めます。
他の症状として、腹がよく鳴る・口が渇く・頭痛・疲れやすい・耳鳴り・めまいがする・腰痛(寝起きに重だるい痛み)などがあります。
この方の舌を見ると、紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。
腹診をしますと、下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は容易に陥没し、押さえる指が腹壁に入るような状態(小腹不仁(しょうふくふじん))をはっきりと認めましたので「腎虚」もあると考えられました。また、「瘀血」の圧痛点を臍の左下に認めました。
そこで、上半身、特に腕や指、首筋、肩ぐらいに痛みやこりやしびれや腫れなどの症状がある時によく使う葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう;症例12参照)と、「瘀血」に使う桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん;症例67参照)を合わせて一ヶ月分処方いたしました。
3月21日に来られた時には、期待に反し、「全く変化ありません。」といわれました。
桂枝茯苓丸加薏苡仁を「腎虚」に使う八味地黄丸(はちみじおうがん;症例42、216、235参照)に変えてみましたが、5月8日に来られ、「飲んでいると少しましかなぐらいの感じです。」とのことでした。
そこで、葛根加朮附湯に変えて治打撲一方(ぢだぼくいっぽう;症例227、228、268参照)を処方いたしましたが、6月15日に来られ、「体力が少しアップしたような気がしますが、あまり変化ありません。」とのことでした。
そこで、「腹がよく鳴る」というのをヒントに半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう;症例17、163、176、179、188、218、286参照)を八味地黄丸と合わせて一ヶ月分処方したところ、7月25日に来られ、「首の痛みがとれました。肩もさわるとしこりがあるようですが、あまり凝りを自覚しないようになりました。」と、喜んでいただきました。もちろんお腹がグルグルいうのもなくなったそうです。

コメント

半夏瀉心湯は実際には胃薬として使うことが多いのですが、「肩こり」にも応用することがあります。
「肩こり」には、「うなじの凝り」に「葛根」が有効なために、これが配合された葛根湯(あるいは葛根加朮附湯)がよく使われます。
半夏瀉心湯は後頭部の下、肩甲骨の中央より少し上の凝りに有効と言われています。
また、肩甲骨の中央やその周辺の凝りには「柴胡(サイコ)剤」が有効で、更年期の肩こりにはこの種の漢方薬がよく使われます。
本症例は部位からいうと葛根湯が効きそうな感じですが、実際は半夏瀉心湯が効きました。
使うきっかけとなったのは、「腹がよく鳴る」という患者さんの訴えでした。
漢方はやっぱり奥深いですね。

293.片頭痛・お腹にガスがたまり、腹がはる

症例は59歳女性です。
片頭痛(30代後半より。激しい痛みで、吐き気・食欲不振を伴う。嘔吐してしまうので水で薬も飲めない。1週間ほど寝込んでしまうこともあった。)の漢方治療を求めて平成24年3月31日太子町から来院されました。
身長149.8cm、体重42kg、BMI18.7とやせを認めます。
他の症状として、快便感がない・ガスがたまりやすく、腹がはる・口内炎ができやすい・薬で胃が荒れやすい・手や足や顔がむくむ・汗をかきやすい・肩こり・風邪が治りにくい・疲れやすい・イライラする・耳鳴り・立ちくらみ・手足の冷え・腰痛・手足のしびれなど多彩な症状ががあります。
春には花粉症が出ます。
この方の舌を見ると、腫れぼったく、歯痕舌を認めました。
また色が紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「気虚」+「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。
加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196、201、204、210、213、214、224、229、230、243、255、256、258、263、271、272、273、277、280参照)呉茱萸湯(ごしゅゆとう;症例51、169、199、213、261、288、304、388、400、450、505参照)を合わせて一ヶ月分処方しました。
一ヶ月後の5月12日に来られた時には、「薬を飲むと胃がカァーと熱くなる感じがするので、あまりきちんと薬が飲めてません。」といわれました。私は、「それはよい兆候だから気にせず続けるように。」と話し、さらに同じ処方をしました。
次に、6月30日に来られた時には、「頭痛は1回出ただけです。食欲も出て調子いいです。ただお腹にガスがたまりやすいのが続き、気になります。」といわれましたので、加味逍遥散に変えて、おなかにガスがたまってつらい人によく使う、香蘇散(こうそさん;症例217参照)を呉茱萸湯とともに処方したところ、7月27日に来られ、「お腹にガスがたまるのは治り、頭痛も1回も出ませんでした。左足が少しむくむ以外に調子の悪いところはありません。」と喜んでいただきました。

香蘇散について

香蘇散は、香附子・蘇葉・陳皮と生姜からなり、胃腸の気滞(気うつ)(症例102、103参照)にはよく使われます。
憂鬱な気分やイライラ感があって、おなかにガスがたまって苦しいという人や、ストレスで胃が弱り、食欲がなくなる人には、この香蘇散を使います。

294.頭痛・アトピー性皮膚炎の漢方治療

症例は38歳女性です。
5年前にパソコンを使う仕事に変わってから、頭痛がするようになったそうです。
頭痛は問診票に、「雨の前の日がひどい。」と書いてありました(下図;問診表より抜粋)ので、症例196(低気圧が近づくとひどくなる頭痛)に記載したように、これだけで五苓散(ごれいさん;症例3、22、120、174、215参照)を使わないといけません。

画像の説明

他の症状として、アトピー性皮膚炎(以前は冬に悪化していたのに、2、3年前からは梅雨時に悪化するようになった)・便秘・頭痛時の吐き気・口内炎ができやすい(一ヶ月前より)・肩こり・息が吸いにくい・体がだるい・疲れやすい・冷えのぼせ・めまい・立ちくらみ・寝つきが悪い・夜中に目が覚める・生理不順(だらだら出血する)などがあります。
一年前から神戸三宮の漢方専門医にかかられ、黄連解毒湯(おうれんげどくとう;症例105、219参照)消風散(しょうふうさん;症例16、219参照)が処方され、それを1年間続けられたそうですが、全く改善しないため、ホームページを見て、平成24年6月23日神戸市から当院へ来院されました。
身長166cm、体重59kg、BMI21.4。
この方の舌を見ると、腫れぼったく、また、色が紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「水毒」+「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。
五苓散(ごれいさん;症例3、22、120、174、215参照)と、「瘀血」に使う桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん;症例67参照)を合わせて一ヶ月分処方したところ、7月28日に来られ、「頭痛は3週間で完全によくなりました。アトピー性皮膚炎もきれいになっていましたが、薬が切れてしばらくするとまた出てきました。」といわれましたので、そのまま続けていただくことにしました。

黄連解毒湯について(下田 憲先生のコメント)

黄連解毒湯の薬味は、全部熱のものを冷ます(瀉す)、一番寒い薬です。三黄瀉心湯は黄連、黄芩は瀉薬ですが大黄はわずかに補の作用があるので98%の瀉薬でしょうか。100%の瀉薬は黄連解毒湯だけです。
黄連解毒湯を黄連解毒湯でない状態に飲ませると、寒くて震えが止まらなくなる人がかなりいます。二日酔いや悪酔いの予防のために、黄連解毒湯と五苓散の組み合わせで使うことがありますが、五苓散で緩和されてるとはいえ万人には薦めません。
五苓散は問題ありませんが、黄連解毒湯はあまり薦めない。そういう意味で非常に強い薬です。
黄連解毒湯はさまざまな熱を下げる薬ばかりです。だから実際はこの薬を単独で使うことは少ない。なぜなら、陰陽図を考えたら分かるように、これだけの冷やす薬ばかりを使わなければいけない状況が、外因ではまずないだろう。外から入って中まで焼かれるというのはそうないです。中からの病気がうんと熱をきたして黄連解毒湯の状態になるためには、当然そこに至るまでに臓が損なわれている。その状態に黄連解毒湯だけを使ったらえらいことになる。

黄連解毒湯を単独で使う一番良くある状況は、夏に海水浴で日に焼かれて顔がパンパンに真っ赤になる皮膚炎。接触性皮膚炎と同じで臓はやられずに皮膚の表面だけ(腑だけ単独に)が真っ赤に焼かれた。つまり、真っ赤になったとは腑に心の熱が現れたことになる。皮膚は本来は肺の支配なんですが、真っ赤になるときは心の色がつく。外からの急性病は通常は内臓まではやられない。これが黄連解毒湯を一番使う状況です。
何か分からないけど突然かぶれて皮膚が真っ赤になったとか、一日中暑い外にいて皮膚が真っ赤になった時に黄連解毒湯は非常に良く効きます。飲みだした途端に良くなる。

それ以外の黄連解毒湯の状態が出てくるときは、臓も大抵少しやられているので、黄連解毒湯単独ではなかなか使えません。一番心の熱を上げやすいのは、以前話したように腎水の不足が一番上げやすい。だから四物湯を加えて温清飲(うんせいいん)として使うことがかなりあります。
今のような病気・赤い色を出すような病気・赤い色がでてくるような病気(炎症ですね)には、中からの炎症でも外からの炎症でも黄連解毒湯を含む製剤は良く効きます。心の色が濁ったときの赤(老人に顔にみられる赤、アトピー皮膚炎で皮膚がドロドロになったときの赤)の炎症の時に使うのが黄連解毒湯です。黄連解毒湯は単味で使うことは少ないですが、すごく大事な薬です。いろいろな臓器の炎症(ほとんどの炎症は赤だから)に使える薬です。

逆に言えば、それだけ強い消炎剤だから使い方も難しいといえます。そこを意識して使えば黄連解毒湯は非常に大事な薬ですし、これから話すいろいろな薬に入ってきます。

295.自律神経失調症の漢方治療

次の症例は58歳、女性です。
約7年前から、以下に述べるような様々な心身の不調があり、総合病院を受診したところ、自律神経失調症と診断され、ドグマチール(うつ状態の改善や気分を安定させる効果の他にも胃の血流をよくして潰瘍の治りを早める働きもある;乳房が張る、乳汁が少し分泌されるなどの副作用のため、平成24年3月2日に中止されたそうです)とメイラックス(不安や緊張感を和らげる働きがあり、気持ちを落ち着かせる)が処方され、それをずっと続けてこられましたが、あまり体調がよくならないため、平成24年3月19日漢方治療を求めて赤穂市から来院されました。
既往歴として、12年前に子宮筋腫の手術をされています。
症状は実に多彩で、便秘・快便感がない・食欲不振・頭痛・肩こり・元気がわいて来ない・体がだるい・疲れやすい・お腹が痞える・お腹に力が入らない・動悸がする・耳鳴(左はせみの鳴くような音、右は蚊の鳴くような音)・手足が冷える(冬にしもやけ)などがあります。
身長148cm、体重43.5kg、BMI19.9とやせを認めます。
この方の舌を見ると、腫れぼったく、白苔を認めました。
また色が紫がかり、舌先が紅くなっており(舌尖紅潮;症例72、141参照)、「気虚」+「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。
加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196、201、204、210、213、214、224、229、230、243、255、256、258、263、271、272、273、277、280参照)人参湯(にんじんとう;症例8参照)に、体を温める附子(ブシ;症例2参照)を合わせて一ヶ月分処方したところ、4月16日に来られ、「食欲がアップし、しんどさが改善してきました。ただし、頭痛(チクチク、ピリピリする感じ)があるため、脳神経外科を受診し、頭部CT検査を受けましたが異常ありませんでした。」といわれましたので、そのまま薬を続けていただいたところ、5月14日に来られ、「便通がよくなり、お腹に力が入るようになりました。でもやっぱり、頭痛と、首や背中の肩甲骨のあたりの凝りは続きます。」といわれましたので、葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう;症例12参照)を追加したところ、6月27日に来られ、「だいぶ調子がよくなりました。」といわれました。
このまま薬を続け、7月31日に来られた時には、「左の耳鳴りは消え、ごはんもおいしいですし、とても調子がよくなりました。」といわれました。

296.顔面・首の湿疹の漢方治療

次の症例は61歳、女性です。
約1年前から、顔面・首の湿疹が出現(最初は目のまわりに出現)し、皮膚科を受診したところ、「アトピーだろう。」といわれ、キンダベート軟膏(ステロイドの外用薬;作用がおだやかで、全身性副作用もでにくいとされ、比較的軽い症状のときに用いるほか、顔などデリケートな患部に使用される。子供や赤ちゃんにも好んで用いられる。)が処方されました。
抗アレルギー薬も1日2回で処方されましたが、眠気が強く、眠前しか服用できないため中止したそうです(睡眠薬に使えそうなぐらい眠気が強かったそうです)。
初めのころは、軟膏が効いていたそうですが、だんだん首にまで拡がり、顔が腫れあがる時もあったそうです。
とても痒く、特にぬくもったりすると痒みはひどくなったそうです。
困っていたところ、当院通院中の方に紹介され、平成24年7月6日、漢方治療を求めてたつの市から当院へ来院されました。
身長146cm、体重49kg、BMI23.0。
他の病気としては他院内科で、コレステロールを下げる薬をもらわれています。
この方の舌は特に異常ありませんでした。
症例276と同様、両目のまわりに最初に皮疹が出現していますので、梔子柏皮湯(ししはくひとう;症例127参照)を1日3回で一ヶ月分処方したところ、8月3日に来られ、「右の目の横と口の横に少し皮疹が残るのみで、ほとんどなおりました。軟膏も塗らずにすんでいます。痒みもほとんどありません。」といわれましたので、さらに同じ薬を処方させていただきました。

297.10年間漢方薬を飲んでいるのに体調不良が続いている症例

次の症例は61歳、女性です。
若い頃より、胃腸が弱く、体調がすぐれないため、約10年前より姫路市の漢方専門医のところへ通院されております。
今回知人より、相生市でも漢方薬を出してもらえるところがあるということで、当院を紹介され、平成24年7月13日来院されました。
身長157.5cm、体重52.0kg、BMI21.0。
処方されていた薬は、補中益気湯(ほちゅうえっきとう;症例15参照)と、めまいの時に頓服で飲むようにと、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう;症例20参照)が出ておりました。
それで調子がよいのなら問題はなかったのですが、新たに問診をとると、便秘傾向・腹がはる・腹が鳴る・胃がもたれる・薬で胃があれやすい・食欲不振・汗をかきやすい・肩こり・体がだるい・疲れやすい・のぼせる・動悸がする・めまい・立ちくらみ・手足の冷え・夜中に目がさめるなどがあり、とても体調がよいとはいえない状態でした。
この方の舌を見ると、腫れぼったく、歯痕舌を認めました。
また色が紫がかり、舌の裏側の静脈が膨れ、「気虚」+「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。
補中益気湯はそのままにして、加味逍遥散(かみしょうようさん;症例72、141、147、165、169、177、178、182、193、195、196、201、204、210、213、214、224、229、230、243、255、256、258、263、271、272、273、277、280、295参照)を足して一ヶ月分処方しました。
一ヶ月後の8月9日に来られた時には、「とても薬が合っています。体の芯がしっかりとしてきた感じです。まだ便秘傾向で時々、酸化マグネシウムを飲む以外は症状はすべてとれています。」と大変喜んでいただきました。
めまいもしなくなったようです。めまいの第一選択は確かに苓桂朮甘湯ですが、それだけではありません。加味逍遥散でとれるめまいもあるのです。
症例294もそうですが、症状が改善しないときは、だらだらと同じ処方を続けるのではなくて、処方を変えるかまたは他の処方を足すかをしていただきたいと思いました。
これにはまだ続きがあり、診察の終わりに患者さんが、「葛根湯(かっこんとう)をもらえますか。」といわれました。私が、「何に使うんですか。」と尋ねると、「前の先生に、風邪の引き始めに飲むようにもらっていました。」といわれました。私が、「夏もですか。」と尋ねると、「そうです。」といわれましたので、コメントのような理由を説明させていただき、桂麻各半湯(けいまかくはんとう)を処方させていただきました。

夏風邪について

  • 誰でも暑い夏は自然と発汗しているので脱水気味になっています。
    冬風邪の特効薬である葛根湯は「麻黄+桂枝」を含み、さらに強力に発汗を促し、外邪を汗で洗い流し追放する薬なので、どんどん脱水が進行(=脱汗)し、最悪の場合、心不全を引き起こし、かえって風邪をこじらすため夏には用いてはいけません。《蔭山 充先生》
  • 矢数道斉先生は、「夏風邪参蘇飲」といわれています。
    夏は、気温が高くて、蒸し蒸しとしていて、 じっとしていても皮膚が熱くて、発汗します。
    参蘇飲は、体の表面に熱がある場合に使用するので、夏のこの状態はぴったりです。
    また参蘇飲は、発汗作用がないのでさらによいとされています。
  • また、桂麻各半湯ももOKです。

〔症例〕 33歳、女性
〔現病歴〕 前日より発熱、頭痛、全身の関節痛、咽頭痛、軽度の咳嗽あり、2003年8月17日受診。身体、特に上半身・顔が火照って暑い、顔面もやや赤く、脈浮やや弱、咽頭発赤あり、体温37.4℃。
〔経過〕 桂麻各半湯エキス投与したところ、3日間で治癒した。

《織部 和宏;漢方医学Vol.32 No4 2008 》

298.原因不明の眼瞼痙攣の漢方治療

症例24ほどは体調が悪いわけではなく、単に眼瞼痙攣(まぶたのピクピクする痙攣)が起こるだけの人にも、緊張を緩和する抑肝散(よくかんさん;症例25、278参照)はよく効きます。
今回2例ほど症例がありますので、載せてみます。
一例目は、56歳男性。
平成20年から、高血圧症で通院中の方です。
身長176cm、体重79kg、BMI25.5とやや肥満を認めます。
4日前より、両眼の眼瞼痙攣があると平成21年11月5日来院。抑肝散を2週間分処方(7.5gを1日3回)したところ、1週間で改善したそうです。
その後、平成22年2月6日、5月6日、7月9日と同様の症状が出ましたがやはり抑肝散ですぐに改善しました。
この方は現在も通院中ですが、それ以後眼瞼痙攣全くは出ていません。

二例目は、67歳女性。
平成19年から、高コレステロール症で通院中の方です。
身長153.2cm、体重44.4kg、BMI18.9とやせを認めます。
白内障で眼科にも通院されていますが、今回右眼の眼瞼痙攣が出たため、診てもらったところ、「異常なし。」といわれました。
そこで、平成24年7月6日、当院へ来られた時に相談を受け、抑肝散を2週間分処方(7.5gを1日3回)させていただきました。
8月4日に来られた時には、「おかげさまで10日ほどで治りました。」といわれました。

このように、他の部位の痙攣には芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう;症例32参照)が効くとされていますが、眼瞼痙攣には抑肝散がよく効きます。

眼瞼痙攣に対する抑肝散の使用経験(鬼怒川雄久先生)

眼瞼痙攣に対して著効を奏した抑肝散顆粒の使用経験

抄録:原因不明の眼瞼痙攣47症例に対し抑肝散を内服させた。
抑肝散は漢方薬で、神経症・不眠・更年期障害に有効とされている。
男性14名、女性33名であり、開瞼困難などの症状はすべて軽症で、角膜障害はなかった。
抑肝散の投与量は40名に対しては7.5gを1日3回、7名に対しては5gを1日2回とした。
連続投与3-7日で自覚症状が45例で改善した。
随伴症状としての不眠と神経症も同時に改善した。
副作用として軽度の食欲不振が3例に起こった。全症例中26例が40歳以上の女性であり、眼瞼痙攣と更年期障害との関連が推定された。
以上から,原因不明の軽度の眼瞼痙攣に抑肝散の内服投与が有効であると結論した。
(臨床眼科Vol.56,No.2,pp183-190(2002))

299.蜂刺症(ハチ刺され)の漢方治療

次の症例は52歳、女性です。
平成24年8月14日夕方、庭仕事をしている最中に右大腿部に激痛を感じた。
後でアシナガバチに2ヶ所(大腿後面と大腿外側の2ヶ所)刺されたと判明。
受傷直後から発赤、腫張が出現し、激しい疼痛と灼熱感を訴えた(写真は受傷直後の大腿後面)。

画像の説明

柴苓湯(さいれいとう)を1包内服させ、マイザー軟膏(合成副腎皮質ホルモン剤で抗炎症作用や抗アレルギー作用を示し、発赤、はれ、かゆみなどの症状を抑える)の外用を行った。
発赤、腫張は翌日朝には消退しており、痛みもほとんど感じないほどに改善していた(下の写真は翌日朝の状態;刺し口の周囲だけに発赤を認める)。

画像の説明

念のため、柴苓湯をもう1包飲ませたところ、昼には多少の痒みが残る程度であり、柴苓湯2包でほぼ完治したと考えられた。

同様の症例報告を下記のコメントに載せておりますが、治るまでに4日間を要しているのは、やはり薬を飲むまでに時間がかかったためと思われます。
本症例は私の家内であり、すぐに治療ができたため、完治まで1日もかからず、柴苓湯はハチ毒により生じた局所の炎症と浮腫の改善に非常に有用な薬剤と考えられました。

蜂刺症による発赤、腫脹に対する柴苓湯の使用経験(大草康弘先生)

抄録:
62歳、女性。
夜間、右手背をアシナガバチに刺された。
発赤、腫張が出現したため来院した。軽度の疼痛と灼熱感を訴えた。ツムラ柴苓湯エキス顆粒の内服とリンデロンVGクリームの外用を行った。
発赤、腫張は急速に消退し、4日後の再来時には完全に消失した。

92歳、男性。
農作業中に左手背をスズメバチに刺された。
高度の発赤、腫張と軽度の疼痛を訴えて来院。
柴苓湯エキス剤を投与したところ、すべての症状が4日目までに、完全に消失した。

蜂刺症の局所の発赤、腫張は蜂毒素により生じた炎症と浮腫である。
柴苓湯は小柴胡湯と五苓散の合剤である。小柴胡湯には抗炎症作用が、五苓散には利水効果が存在する。
柴苓湯はハチ毒により生じた局所の炎症と浮腫の改善に非常に有用な薬剤と考えられた。

漢方医学(Vol.26, No.1, Page32-33,2002)


ある皮膚科の先生が蜂刺症の治療について書かれていますが、普通はステロイドを内服させるようです。

刺されましたといってやってきたときはあまり腫れてなくても、「3日前に刺されました。」と言ってやってくる患者さんがパンパンに腫れていることが多いので、基本的にステロイドを内服処方します。
高血圧、糖尿病、胃潰瘍などで治療中でないことを確認して、刺された部分が少し腫れてる場合は、プレドニゾロン10mg/日で2日、パンパンに腫れていて痛い場合は15mg~20mg/日で3日~4日といったところです。ステロイド忌避の方には内服は処方しません。
ステロイド内服しなくても通常は数日で軽快しますから漸減はしません。気になる場合は「全部飲み終わってもまだ腫れて痛かったらもう一度おいで。」といっていますが、あまり再診してきませんから治ってるのだと思います。

300.変形性膝関節症の漢方治療

次の症例は66歳、女性です。
平成24年4月20日、日課の散歩(5年前から朝1時間ほど毎日歩いている)の途中に、下肢のストレッチをしたところ、突然右膝が痛くなり、近隣の市の評判の良い整形外科を受診したところ、膝にたまった水を抜いてから、ヒアルロン酸の注射をされました。
以後、2週間後に1回、それから1週間毎に1回合計5本、それからまた2週間毎に5本打ち、全部で11回ヒアルロン酸を打っても痛みが全くよくならないため、先生に尋ねたところ、「軟骨がすり減っているんだから治らない。」といわれ、「とにかく体重を減らしなさい。」ともいわれたそうです。
困っていたところ、当院通院中の方の紹介で、平成24年8月11日、漢方治療を求めて加西市から来院されました。
身長160cm、体重64kg、BMI25.0と軽度肥満を認めます。
そのほかの症状として、足がむくむ・汗をかかない・口やのどが渇く・手足が冷える・夜中に目が覚める・眠りが浅いなどがあります。また、他院内科で糖尿病と高コレステロール血症の治療を受けています。
舌は、色が紫がかり、白い苔が厚く付き、舌の裏側の静脈が膨れ、「水毒」+「瘀血」(おけつ)体質と診断いたしました。
また、膝に細絡(皮膚上に表れる糸ミミズ状で赤紫色の毛細血管腫;症例91参照)を認めました。
膝を診ると、少し腫れており、皿の内側が痛むようです。
瘀血体質の神経痛に使う、疎経活血湯(そけいかっけつとう;症例1参照)と水毒体質の膝の痛みによく使う防已黄耆湯(ぼういおうぎとう;症例76参照)に、風呂で温めると痛みが和らぐとのことでしたので、冷えがあると判断して体を温める附子(ブシ;症例2参照)を合わせて開始したところ、1週間後の8月18日、71歳の別の女性の方が、この症例300の人から紹介を受けて加西市から来られ、「私も痛みがとれたから、あなたも行ってきなさい。」といわれたそうです。
そういえば、この方は帰りがけに、「自分の痛みが取れたら、紹介したい人がいる。」といわれていたのを思い出しました。
それにしても今回も変形性膝関節症はあっけなく治ってしまったようです。
またこの症例をみると、整形の先生がいわれる、「軟骨がすり減っているから治らない。」とか、「体重を減らせば治る。」などは、全く根拠がないということがよくわかります。

実はこの後、8月22日にまた別の70歳の女性の方が、この症例300の方から紹介され、加西市から来られました。
この方がいわれるのには、「薬を飲み始めて5日目に完全に痛みがとれたので、あなたも行っておいで。」といわれたそうです。

9月7日にご本人が来られた時にに聞くと、朝起きた時歩きがけにはいつも激痛が走るのに、5日目の朝はうそのように痛まなかったそうです。それきり治ってしまったそうです。

痛みに苦しむ方がまたひとり、漢方薬によって痛みから解放されたことは本当によかったです。

変形性膝関節症の漢方治療については症例2,76,111,131,184,207,209,227,228,245,268,269,282,283,311,319,334,355も参照して下さい。