舌はからだをうつす鏡

まず舌を診ること、つまり「舌診」は、東洋医学での四診(「聞診」「問診」「望診」「切診」)の中のひとつの、「望診」にあたります。

空腹時に舌全体の色・形(舌質)や舌苔を観察することで「寒熱」の区別や、「気血のめぐり」の具合、「病気がこれから悪くなるところなのか、良くなりかけているのか」、といったことなどがわかります。
つまり、舌はその人の体質や内臓の状態を映し出す“鏡”であると考えられています。
また、舌は粘膜に覆われ、血管がたくさん集まっているところなので、血液や体液の質およびその過不足が見てとれ、体調などがよくわかります

そのため、東洋医学ではこの患者の舌を診る「舌診」を非常に重視しています。

舌の状態は健康状態によって様々に変化するため、舌の状態を観察すると毎日の体の状態を知ることが出来ます。どうぞ毎朝、自分や周りの方の舌を観察して、改善できるところは努力してみてください。舌は健康のバロメータなのです。舌診で未病を防ぎ、体質の改善をするのが健康の秘訣です。

正常な舌を知ろう

まず、正常な舌は、ふっくらと柔らかく、赤ちゃんの舌のように舌全体がきれいなピンク色(淡紅色)で、適度な湿り気を帯び、動きも滑らかです。
舌には、うっすら薄い白色の苔(苔を透して舌本体がみえれば正常)がのっている状態が、理想とされます。

舌の運動‥舌を出す際に、舌が震える人がいます。この所見は、緊張しやすい、繊細な神経の持ち主にみられます。気疲れしやすい人です。

上の写真は、私の下の娘(中学2年生)で、ほぼ正常な舌と考えられます。
舌の大きさは、程よい厚さと大きさで、柔らかくよく動きます。淡紅色で白色の薄い苔が均等についていて適度にうるおいがあるのが確認できると思います。
まずは正常な舌をよく観察し、よく覚えておくことが大切です。

舌の形

下の写真のように、舌辺がデコボコと歯型がついている舌体(ぜったい)を「歯痕舌(しこんぜつ)」といいます。

下の症例は、35歳女性で、食欲不振・胃痛などを訴え来られた症例です。六君子湯を処方しました。
専門用語で、「脾虚による水湿運化不能当院の漢方著効例4の症例154を参照下さい) 」により生じるとされています。

下の症例は、49歳女性で、めまいの訴えに対して、苓桂朮甘湯がよく効いた症例です。

歯痕舌は、水分代謝が悪いため舌がむくんで、口の中でふくれた状態が長く続いたために、いつも下あごの歯に押し付けられているため歯型がついてしまうのです。
「脾虚」(脾とは、胃腸のことを指す。消化吸収力の低下のこと。)に多くみられ、時に腎・膀胱の水液失調の時にもみられます。

全体にぼてっとして大きく厚みがある(「胖大(はんだい)」;下の写真参照)のもまた、水分代謝が悪く、体に余分な水分がよどんでいる証拠(=「水毒」)です。これに「気虚」が重なると上記の「歯痕舌」が現れます。

 

反対に舌が痩せて薄いものは「痩薄舌(そうはくぜつ)」といいますが、「血虚」「陰虚」などを示します。中身がないから痩せてるわけです。

 

 

血虚‥「血(けつ)」の不足で、皮膚の乾燥、目がかすみや不眠などの症状が出る。
陰虚‥「水(すい)」の不足のことで、空咳、のどのいがらさ、足の火照りなどの症状が出る。

痩薄舌のうち、舌色が淡白であるのは「血虚」で多く見られます。
「陰虚」では、舌色は紅く、苔は少ないか全くの無苔となります。
比較的若い人に見られます。

 

また、「裂紋舌(れつもんぜつ)」と言って舌に亀裂が入っている人もいます(下の写真)。
舌の中心を通る線を正中線(せちゅうせん)といいますが、これは健康な人にもみられるため、チェックポイントとなるのは、舌面に見られる正中線以外の亀裂です。
日照が続いたあとの田んぼや地面にできたひび割れと同じで、病的には、熱が盛んで陰液の消耗が激しい(=体の水分不足)「陰虚」や「血虚」を示します。

 

舌の色

淡い感じや白っぽいのは、「陽虚(寒)」、「気虚」、「血虚」などでみられます。
「淡紅」と表現されるほんのりした赤さが正常とされ、陰陽のバランスがとれた状態です。

紅さが強くみられるものは、「熱証」「陰虚火旺(陰が不足し、オーバーヒート気味になること)と呼ばれる陰液が不足して、相対的に陽気が強くなって熱を帯びた状態です。
手足のほてりやのどの渇きを訴えるようになります。

もっと赤味が強い「絳舌(こうぜつ;下図;「舌診アトラス手帳」より)と呼ばれるものは、 熱が盛んで熱邪が内部に深く侵入しているものをさします。

紫色が認められるものは、 「瘀血」(おけつ;血液がよどんで、流れの悪い状態)の存在を示します。


舌苔の性状、色

舌の表面には、うっすらと白い苔が生えているのが普通です。 この舌苔は、体の状態によって変化し、東洋医学の診断に重要な手がかりになります。 「苔の厚さ」、「湿り具合」、「色」を観察します。

正常は、白い薄い苔で適度に潤いがあります。

厚い苔は、病邪の勢いが強いことを示します。通常の苔の厚さが厚くなっても、 顆粒状に苔が集合しておりますが、苔が融合してべたっとして豆腐のカス状になることがあります。 この舌苔の異常のことを膩苔(じたい)といいます。 膩苔は、「痰湿」や「痰飲」といった陰液過剰状態(日本漢方では、「水毒」といいます。)や 「食積」(しょくしゃく;食べ過ぎで消化しきれない状態)など、体の内側に余り物がたくさんある状態を示しています。
こういった舌をみたら、食べ物や飲み物の摂り過ぎかどうかをチェックする必要があります。

摂り過ぎがあまりなくても苔が見られる人がいますが、通常の食事でも負担になり、 消化しきれない体質で、「脾虚」の存在が考えられ、六君子湯などの漢方薬の助けが必要となります。

苔が殆どみられない「無苔」や部分的に剥がれてしまっている「地図状苔」は、「陰液の不足;陰虚」や「気虚」を示します。

舌全体が乾いたものは「燥(そう)」で、「水(津液)不足」や病邪の性質が熱や燥に変化したことを意味します。

舌の表面が透明な液体で覆われて過度に湿潤した状態を「滑(かつ)」といい、湿痰や寒湿を示します。

舌苔の色は寒から熱に向かって、白→薄黄→黄→茶→(黒)へ変色します。
白は、寒や湿、黄は、熱と関連しています。 黄色の舌苔には、清熱作用のある黄連解毒湯などを用います。

参考:「陽気」と「陰液」について

漢方では体の中で、活動エネルギーの「陽気」と、血液や正常な水液、成長発育の源となる「陰液」といった基本物質が互いに助け合いながら、ある時は制御しながら生命の維持をしているという考えが基礎にあります。